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今週の全米アルバムチャート事情 #164- 2022/12/31付

ロシアのウクライナ侵攻、安倍元首相暗殺、エリザベス女王のご崩御などの暗いニュースの一方、大谷翔平の活躍やサッカーワールドカップでの日本チームの躍進など元気づけられることも多かった2022年もいよいよ最終週。先週ハワイ出張だったので、ただでさえ年末感のない最終週をバタバタと過ごしております。そんな中でこの「全米アルバムチャート事情!」も今年最後の投稿となりました。今年で4年目に突入したこのコラムも、何とか毎週投稿を続けてこられたのも、皆さんのスキやコメントに支えられたおかげと感謝しています。また新年も引き続き頑張って最新の全米アルバム・チャートから見えるいろんな風景をお伝えしますので引き続きご愛読のほど、お願いしますね。

"SOS" by SZA

ということで今年最後の12月31日付Billboard 200、全米アルバムチャートの1位は、やはり強かったSZAの『SOS』が、先週の予想の2割減よりはやや大きめの43%減のそれでも180,000ポイント(うち実売1,000枚、すべてデジタルのみ)で、2位で今週ヴァイナルを68,000枚売って12%ポイントを上げてたテイラーの『Midnights』をかわして2週目の1位を確保していました。このアルバム、先週も書いた通り作品としてかなりクオリティ高いので人気も高いのはわかるところですが、一つ腑に落ちないのは、このアルバムが12/9リリース早々の12/16にはRIAA(全米レコード協会)認定のゴールド・ディスクに認定されていること。ゴールド・ディスクは50万枚相当の売上を記録して初めて認定されるはずなのと、通常売上データが集計されるタイムラグがあって認定は遅れ気味になるはずなのに(例えばテイラーの『Midnights』は初週で100万枚以上売り上げてプラチナ認定対象達成してましたが、認定までは1ヶ月以上かかってます)、この2週で8,500枚分の売上しか記録してないこのアルバムがこんなに素早くゴールド認定されてるのって、変ですよねえ。よく判らん。

まあそれはさておき、このアルバムの魅力の一つは、SZAが様々なアーティストとのコラボを通じて、単なるR&Bアルバムの枠に収まらない作品作りをしていて、それがアルバム全体の奥深さを作り出してるという点でしょう。中でもここ数年オルタナ・ロック・シーンで存在感を増しているフィービー・ブリッジャーズとの共作で彼女をフィーチャーした「Ghost In The Machine」はそのいい例。R&Bというよりはエレクトロ・ポップ的なスタイルなんですが、SZAのボーカルが素晴らしくて曲全体見事にSZAの世界観に作り上げられてます。それ以外ではオリヴィア・ロドリゴか?と思うほどのパワー・ポップ・チューン「F2F」や、天才ミュージシャンとしてこれも一昨年のグラミー主要賞にノミネート以来注目を集めるジェイコブ・コリエーと共作してる「Good Days」なんかもジャンルを超越した世界を展開していて聴くたびに引き込まれていく作品ですね。メタクリティックで90点という高得点をマークしたのもむべなるかな。年明け2月からは北米17都市を回る「SOSツアー」をを予定してるSZA、2023年に更なる飛躍が期待できそうです。

"Indigo" by RM

さて2022年最後のBillboard 200のトップ10は初登場はなし。でも先々週15位に初登場して先週はチャートから消えていた、BTSRMのソロアルバム『Indigo』が今週CDリリースのおかげで、何と83,000ポイント(うち実売79,000枚)で3位に再登場してきてます。

このアルバムは先々週圏外初登場の時にも言ってましたが、全体バウンシーでポップで、多幸感溢れるトラックが多くて、チャンス・ザ・ラッパーアンダーソン・パーク(「Still Life」で共演)とかを思わせる気持ちのいいヴァイブがアルバム全体を包んでいるのがなかなかいいですよね。この再登場で、RMBTSのメンバーで初めての全米トップ10アルバムを記録したことになりました。メンバーの中でもjホープシュガに並んで抜群の存在感を持っているRMなんで当然だし、これだけ作品のクオリティが高いと売れるのも判ります。Kポップお馴染みの複数パターンのCDパッケージリリースも、他のアーティスト達が10種類とかでやってるところ、彼の場合はわずか3種類。それでこの売上ですからね。

"Paper Route Frank" by Young Dolph

今週のトップ10初登場はゼロですが、圏外100位までには3枚が今週初登場。しかしいずれもトラップ系だったりギャングスタ系のラップ・アルバムでちょっとあまり気が進みませんが一応ご紹介しときましょう。今週の初登場一番人気は25位初登場の、故ヤング・ドルフの遺作となった『Paper Route Frank』。彼はちょうど1年前くらいの昨年11月メンフィスで、母親に届けるクッキーを取りにクッキーショップに行ったところ22発の弾丸を撃ち込まれて他界してます。既に36歳のベテランだった彼は子供との時間を確保するためにラッパーからの引退を考えていた矢先のことでした。

チャリティとかもやってて死後メンフィス市が彼の命日を社会奉仕の日とする法律作ったらしいですが、このアルバムで聴ける作品はごくごく普通のトラップ・チューンですね。改めてヤング・ドルフの冥福を祈ります。

"Loyal Bros 2" by Various Artists

37位に登場してきたのは、シカゴのリル・ダークを中心にしたドリル・ラッパー集団、オンリー・ザ・ファミリーのコンピレーション・アルバム『Loyal Bros』シリーズの第2弾『Loyal Bros 2』。最初の『Loyal Bros』は昨年12位を記録してます。

前回同様、フューチャー、コダック・ブラック、トリッピー・レッドらメジャーなラッパー達をフィーチャーしてますが、こちらもギャングスタなドリル・ラップ一色の作品なんでその手のファンの方以外にはあまりおすすめできる内容ではないですね。リル・ダークのキャラはさすがに立ってますけど。

"DirtiestNastiest$uicide" by $uicideBoy$ x Germ

そして今週最後の100位までの初登場アルバムは、54位に入ってきた、2018年のファースト・アルバムから3作連続トップ10に入れてきている、ニューオーリンズ出身の白人ハードコア・ラップ・デュオのスーサイドボーイズ($uicideBoy$)ジャーム(って誰か全く不明)とコラボしたEP『DirtiestNastiest$uicide』。うわっ、ジャケ趣味悪っ。

スーサイドボーイズのアルバムがトップ10入った時も言ってたけど、彼らアメリカ社会への嫌悪と不条理感を露わにした自己壊滅的なトラックがその作品のほとんどを占めてるけど、トラックについては結構コアなサンプリングを使ってることもあって根強い人気を維持してて、今回のEPもそういうファンが支持しているのではないかと。でもこれも聴いてて楽しくなるような感じじゃまったくないし、ただただ今のアメリカの闇の部分を感じさせるだけの作品なんで、自分的にはパスですわ

今週の初登場はなかなかテンション上がらない作品ばかりでしたねえ。一方トップ10は相変わらずクリスマス・アルバムが4枚ランクイン。この傾向は来週のチャートくらいまで続きそうです。ということで今週のトップ10おさらいです(順位、先週順位、週数、タイトル、アーティスト、<総ポイント数/アルバム実売枚数、*はHits Daily Double調べ>)。

1 (1) (2) SOS ● - SZA <180,000 pt/1,000枚>
*2 (2) (9) Midnights ▲2 - Taylor Swift <155,000 pt/97,000枚>
*3 (RE) (2) Indigo - RM <83,000 pt/79,000枚>
4 (3) (3) Heroes & Villains - Metro Boomin <76,000 pt/640枚*>
5 (5) (107) Christmas ▲6 - Michael Buble <72,000 pt/8,589枚*>
6 (4) (7) Her Loss - Drake & 21 Savage <60,000 pt/245枚*>
*7 (8) (72) The Christmas Song ▲6 - Nat King Cole <59,000 pt/3,499枚*>
*8 (9) (106) A Charlie Brown Christmas (Soundtrack) ▲5 - Vince Guaraldi Trio <56,000 pt/14,559枚*>
9 (11) (115) Merry Christmas ▲8 - Mariah Carey <53,000 pt/4,355枚*>
10 (7) (33) Un Verano Sin Ti - Bad Bunny <52,000 pt/1,628枚*>

ということで今週もがっちりSZAが1位をキープした2022年最後の「全米アルバムチャート事情!」いかがだったでしょうか。この一年もこの記事を読んで頂きありがとうございます。スキを付けて頂いた方には励ましを頂き、特にお礼を申し上げます。このコラムを読んで頂いて、今の最新の全米アルバムチャートではどんなアーティストが、どんな作品が上位に来てるのかの情報を取って頂くと同時に、それらの作品とチャートの背後にある社会的文化的状況なんかにも少し触れられたな、と感じて頂けたのであれば、自分のこのコラム執筆の目的の一つが達成されたことになります。それを引き続き目指して2023年も毎週投稿して行きますのでフォローよろしくお願いします。
で、今年最後の来週の1位予想ですが、新年最初のチャートは対象期間が12/23-29とクリスマスを挟むので、新譜で目立つのは(また出してるのかーヤングボーイ・ネヴァー・ブローク・アゲインのミックステープくらいと地味な週です。YBNBAはトップ10は来そうですが、来週はSZAが3週目で10万ポイントくらいに下げてくる一方、テイラーはクリスマス・ショッピング週間に強そうなので、あまりポイントを下げず、結果テイラーの1位返り咲き、通算6週目の1位が有力だと思います。ということで今年一年ありがとうございました。皆さんよい2023年新年をお迎え下さい!

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