【恒例企画#3】Boonzzyの第63回グラミー賞大予想#8〜アメリカン・ルーツ部門(その1)
さてこのBoonzzyの第63回グラミー賞大予想、後半戦に入ってきました。続いては2回に分けて、アメリカン・ルーツ部門の予想を行きます。まずそのパートワン。
36.最優秀アメリカン・ルーツ・パフォーマンス部門
◎ Colors - Black Pumas
Deep In Love - Bonny Light Horseman
× Short And Sweet - Brittany Howard
I’ll Be Gone - Norah Jones & Mavis Staples
○ I Remember Everything - John Prine(受賞)
さて去年はこの部門、本命◎対抗○を付けたヨーラやリアノン・ギデンズ、そしてアイム・ウィズ・ハーの3人など、アメリカーナ実力派の蒼々たる面子を差し置いて、何と一番「らしくない」サラ・バレリスが受賞しちゃったこの部門、2015年第57回の部門創設以来、5回予想のうち、本命対抗が来たのが2019年第61回のブランディ・カーライルのみの1回と、自分の予想的にはなかなか鬼門の部門です。自分としてはR&Bに並んで大好きなジャンルなのでなかなか辛いところですが、今年のノミニーの顔ぶれもいずれ劣らず実力派だったり、グラミーの評価が高そうなアーティストだったりと大いに予想悩みました。ここで何といっても光ってるのが、主要部門のROYにもノミネートされている、テキサス州オースティン出身の白黒混合のオルタナティブR&Bデュオ、ブラック・プーマズの「Colors」。彼らは去年のグラミーでも新人賞部門にノミネート(ビリー・アイリッシュがいたので最初から受賞は無理でしたが)、今年もこの曲でこの部門とROYにノミネートの他、この曲が収録されているアルバム『Black Pumas』のデラックス・エディション(オリジナル・エディションは昨年のグラミー対象期間リリースですが、このデラックス・エディションは今年の対象期間に出てます。この辺、何となく去年のリゾ同様、NARASがかなり肩入れしている雰囲気)は主要部門のアルバム部門にノミネートと、何となく今年のグラミーの注目株の一つなんですよね。それにプラスして、この曲、先日のバイデン新大統領の就任コンサートのオープニングで、彼らが登場していきなり演奏されたというのもかなりポイント高い。正に昨年のBLMを背景にしたような感じのタイトル、歌詞そしてゆったりとしたグルーヴの楽曲にも時代的な存在感を感じますので、本命◎は彼らに。
一方、また別の意味で光っているのが、一昨年半世紀近いキャリアで始めての全米トップ10アルバムとなった『The Tree Of Forgiveness』(2018年5位)が最優秀アメリカーナ・アルバム部門も含めてアメリカン・ルーツ部門で2部門ノミネートされるも受賞できなかったジョン・プライン。惜しくもその後昨年4月に、音楽界ではコロナウィルスの最初の犠牲者となってしまったジョンですが、昨年6月に彼の最期の録音となった「I Remember Everything」が限定ヴァイナルシングルでリリースされるというファンには嬉しいような切ないようなプレゼントが届けられました。「ソングライターの中のソングライター」と多くのカントリー、フォークミュージシャン達に未だに敬愛されるジョンのこの静かなアコギ一本の曲にはやはり対抗○付けなくてはいかんでしょう。そして穴×ですが、今回の記事のスプラッシュ画像に使った、ロックフィールドにも関わりあるフォーク系の中堅ミュージシャン3人が結成したボニー・ライト・ホースマンも素晴らしいし、ノラジョンと御大メイヴィス・ステイプルズのしっとりとしたデュエットもいいんですが、今回ロック部門、オルタナ部門、R&B部門そしてこのアメリカン・ルーツ部門とジャンルを完全にまたいだノミネーションで存在感も大きく、過去この部門でアラバマ・シェイクスとしても受賞経験のあるブリタニー・ハワードに。
37.最優秀アメリカン・ルーツ・ソング部門(作者に与えられる賞)
Cabin - The Secret Sisters (Laura Rogers & Lydia Rogers)
Ceiling To The Floor - Sierra Hull (Sierra Hull & Kai Welch)
○ Hometown - Sarah Jarosz (Sarah Jarosz)
◎ I Remember Everything - John Prine (Pat McLaughlin & John Prine)(受賞)
× Man Without A Soul - Lucinda Williams (Tom Overby & Lucinda Williams)
そのミュージシャン達に深く敬愛されていたジョン・プライン、過去にグラミー賞のノミネートは多く、1972年第15回の新人賞部門(不運にもこの年はイーグルス、ロギンズ&メッシーナ、ハリー・チェイピン、アメリカというむっちゃ強敵ばかりで、アメリカが受賞しました)をはじめとして今回の2部門ノミネートを含めて主としてフォーク・アルバム部門で過去13回ノミネート、うち1992年第34回と2006年第48回の2回の受賞を果たしています。また昨年奇しくも他界前の1月のグラミーで生涯功労賞も受賞。70〜80年代もコンスタントに独特のストーリーテリングとドライなユーモアを持った作品をリリースし続けた彼には遅めの受賞でしたが、少なくとも亡くなる前に功労賞を受賞できたのは何よりでした。自分もそれをきっかけに彼の過去のアルバムを順番に聴き始めて、彼の偉大さを実感した次第。で、そのジョンの最後の録音「I Remember Everything」、演奏もアコギ一本でシンプル、歌詞もこれまでの人生を振り返るような滋味あふれるような内容で、やっぱり有終の美で飾って欲しいという気持ちから、この部門の本命◎はジョンに捧げます。
対抗○は、去年このソング部門でアイム・ウィズ・ハーの一人として「Call My Name」で見事受賞、個人でも2017年第59回に、前作の匂い立つような素晴らしいアルバム『Undercurrent』からのカット「House Of Mercy」でパフォーマンス部門を受賞していたサラ・ジャロウズの最新作、『World On The Ground』からの「Hometown」に付けます。この『World On The Ground』は次のアルバム部門にもノミネートされてて、そこでも受賞が期待されるのですが、単に若き卓越したマンドリン奏者、というだけでなく自らの世界観を表現できるシンガーソングライターとして成長したサラ。またコロナが収束したら、是非来日してほしいアーティストの一人です。そして穴×ですが、サラの一回り下の世代でマンドリン奏者として注目を集めているシエラ・ハルの作品にもかなり惹かれているのですが、ここは今やこのジャンルの大御所となったルシンダ姐御の曲に敬意を表して進呈します。
38.最優秀アメリカーナ・アルバム部門
Old Flowers - Courtney Marie Andrews
Terms Of Surrender - Hiss Golden Messenger
◎ World On The Ground - Sarah Jarosz(受賞)
× El Dorado - Marcus King
○ Good Souls Better Angels - Lucinda Williams
このアルバム部門では、この前のソング部門の予想で名前を挙げたサラ・ジャロウズとルシンダ姐御の2人の作品がやはり燦然と光ってますねー。昨年自分の個人年間ランキングの7位に入れた素晴らしいアルバム『Saint Cloud』(シーンでも評価の高いこのアルバムがなぜアメリカーナ部門やフォーク部門に今回ノミネートされてないのかかなり腑に落ちないのですが)をリリースしたワクサハッチーことケイティ・クラッチフィールドが、憧憬と敬愛を丸出しにしてルシンダのこのアルバムリリースにあたってインタビューをしていたのが印象的でしたが、やはりこのジャンルの大御所としてのルシンダの存在は間違いなく大きいところ。それを表すかのように、過去グラミーでも15回に及ぶノミネート経験があるのですが、うち受賞したのは3回のみで最後の受賞が2002年第44回のロック・パフォーマンス部門、このアメリカーナ部門が新設された2010年以降は残念ながら受賞がありません。一方サラはここ10年で3回受賞とここ最近の成績では大先輩のルシンダを上回っていることを考えると、ここはわずかにサラにエッジがあるのではというのが自分の見立て。従って本命◎はサラ、対抗○はルシンダに。
悩ましいのは穴×候補で、2010年代初頭はエモ・ロック・バンド、ジミー・イート・ザ・ワールドのメンバーとしてキーボード担当、その後ソロのシンガーソングライターとなったアリゾナ州フェニックス出身のコートニー・マリー・アンドリュース、カントリーやフォークだけでなくR&Bやブルースの要素も持ったオルタナ・カントリー・ロックを展開するノース・キャロライナ州ダーラム出身のバンド、ヒス・ゴールデン・メッセンジャー、そしてR&Bとブルースとサザン・ロックが融合した骨太なグルーヴをかませるサウス・キャロライナ州グリーンヴィル出身のマーカス・キングと、いずれ劣らぬ強者ばかり。しかしこの中ではグラミーと縁の深い、ブラック・キーズのダン・オーワーバックがプロデュース、いかにもな南部音楽ごった煮風の骨太ロックを展開、塩辛いロックボーカルを聴かせてくれるマーカス・キングがかなり耳についたので、こちらに穴×を付けておきます。
39.最優秀ブルーグラス・アルバム部門
Man On Fire - Danny Barnes
To Live In Two Worlds, Vol. 1 - Thomm Jutz
◎ North Carolina Songbook - Steep Canyon Rangers
× Home - Billy Strings(受賞)
○ The John Hartford Fiddle Tune Project, Vol. 1 - Various Artists (Matt Combs & Katie Harford Hogue - producers)
さて、毎回よく判らない中で予想しているこの部門(笑)。たまたま先ほど、このグラミーでも過去主要部門のアルバム部門にノミネート経験があり、その年カントリーアルバム部門を受賞しているスタージル・シンプソンが自分の曲をブルーグラス・スタイルでセルフカバーしてる『Cuttin' Grass Vol.1』を聴いてたんですが、これがノミネートされてたら予想は簡単だったんですがね。さて今回のノミネーションのうち、一つだけコンピレーション・アルバムがノミネートされていて、これが60〜70年代活躍したブルーグラス・レジェンドのフィドル・バンジョー奏者として有名で、あのグレン・キャンベルの大ヒット曲「Gentle On My Mind」(1968年第10回グラミーのSOYノミネート作品)の作者として有名なジョン・ハートフォードへのトリビュートアルバム。その「Gentle On My Mind」で第10回のカントリー・ソング部門を受賞している他、過去20回近くに及ぶグラミー・ノミネート歴を誇るこのレジェンドを讃えるために、あのパンチ・ブラザーズのメンバー全員や、先ほど名前の出たシエラ・ハルやベテランのマルチ奏者、ティム・オブライエンらが結集したこの作品、何だか受賞しちゃいそうな気がするので、取り柄えず対抗○を付けてみました。
一方この部門で2013年第55回受賞経験あり、それ以外に過去、達者なバンジョー奏者としても知られる人気コメディアン、スティーヴ・マーティンと80年代後半に「What I Am」(1989年全米7位)のヒットで知られるエディ・ブリッケルとのコラボ作品でも知られる(グラミーにも2回ノミネート)、ノース・キャロライナ州出身のブルーグラス・バンド、スティープ・キャニオン・レンジャーズが、過去のグラミー経験という観点からは頭一つ抜けているような気がするので、彼らに本命◎。穴×は若手実力派のブルーグラス・ギタリストながら、ジミヘンやブラック・サバスなど、ハードロックやメタルのファンでもあるというビリー・ストリングスのアルバムに付けておきます。
ということでアメリカーナ部門その1はここまで。次回はその2でブルースとフォーク部門の予想をいきますのでお楽しみに。
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