料理
文章が書けるって大事だ。読むのも好きだ。良いと胸を張って送り出せる文が綴れる人間になりたい。しかしアカデミックな文章や私信など、誰かが読むと思って書くと、うまく指が動かないことが多い。
このタイミングで人様が見れる場所に文章を投げようと思いたった理由としては、これではどこか物足りない。というわけで学生を経て培った「後付けで理由をそれっぽく生成する」スキルを使ってみる。
第一に、文は書かないとうまくならない。読むだけでは上達しない。大学の卒論なんてもんを書かねばならぬのなら、練習しとくに越したことはないのである。良い文章は人を魅了できる。それだけでも書く価値がある。
第二に、自分が書いた文章を残しておくことは己を見つめなおす材料として大事なことだ。これは自分のツイートの薄さを見返しながら感じた。私は自分の感情をあまりにも形あるものに残していなさすぎる。三日坊主は生来の気質だが、別に続かなくてもいいやと思っている。とりあえず一つ、文章に名前を付けて下流に流すまでに至ったのだ。上出来。
もう出ない。大したスキルでもないみたい。
昨晩はビーフシチューを作ったので、その際の私の頭の中と口から出た言葉を書き起こしてみる。
商品名が出てきますが、別にステマでも何でもありません。おいしかったです。良いルーだと思います。
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痛む頭を引きずって歩き、なんとか台所に立つ。今日の晩ご飯はビーフシチュー。珍しく牛肉の料理を作ろうと思い立ったので、栗原はるみ先生の手を借りて牛肉をおいしく変身させちゃうわよ。
『栗原はるみのビーフシチュー』
スーパーでシチューコーナーの下の段に並んでいた。同期の中でもそこそこ数が残っていたのは多分値段のせいだろう。今日は牛肉記念日なので、迷わずはるみを手に取った。
さあて、私にしては珍しく、ちゃんとスーパーで材料のグラム目安を見ながら肉を買ったぞ。牛肉200グラム。そんなにいるか?と正直思ったけど、初めて作るわけだし天下のはるみが言うなら、と表示を信じて190グラムの牛小間を買ったのだ。
改めて箱の裏の材料を確認する。
材料 4皿分(一袋) *材料はすべてひと口大に切ってください。
・牛肉 … 200g
・玉ねぎ … 中1個(200g)
・にんじん … 中1/2本(100g)
・じゃがいも … 中1個(150g)
(以下、水と油とビーフシチューの素。子細省略)
冷蔵庫の中身をきちんと把握しているので、今日は野菜を買わなかった。ルーはあったかもしれないなと思いながらも、確か家にあるのはドライカレーと普通のシチューの素だった気がしたので、買って帰った。
確認したら戸棚の中にはなんのルーも入っていなかった。
さて、牛肉を鍋で炒めながら、別のフライパンで炒めるための野菜を切り始める。まずは玉ねぎ。え?火が通りにくいものから炒めるべきであって、玉ねぎは普通後半に入れる?分かってねえな、弱火でコトコトしたときにできる、玉ねぎの糖分が解け出て固まったカラメルがおいしいのだよ。
珍しく取り出したスケールになんでも用途の容器を載せて、切った具材の重さをはかる。コーヒー淹れる以外の用途でスケール使ったのは二か月ぶりくらいかもしれない。
190グラム。200グラムをバイト先で測り続けているのでちょっと自信があった。油をひいてIHコンロ、ぴ。うちのIHは2口なのだ。
玉ねぎを投入すると、次はにんじんを切る。じょきん、とビニール袋の留め具部分を切って、袋から取り出す。乱切りは正解がないから楽しい。一本の半分以上を切ったところで重さをはかる。80グラム。じゃああとちょっとだし一本丸々入れればいいじゃん。
ざくざくざく、再計量。150グラム。
「え」
思ってたより重かった。『あとちょっと』判定がゆるすぎんか?
仕方がないので重量オーバーのにんじんをフライパンにぶち込み、じゃがいもの皮むきに取り掛かる。じゃがいもって面白い存在だよな。デンプン塊のくせに野菜コーナーに堂々と座っている。作業を進めるために取ってもいない授業に居座り続ける自分の姿をじゃがいもに重ねてみる。
1個切り終わって90グラム。ええいままよ、もう一個いってまえ。
続いて、材料にはないがエリンギィを入れる。きのこは偉大だ。うま味がでる。今回買ったのは子エリンギィ。4センチくらいのサイズの小さいエリンギィを集めたものだ。輪切りにしていれるのにちょうどいい。
話は脱線するが、野菜やみかんが入っている袋のテープの留め具部分、ぐじゅぐじゅとまとめられてきゅっとテープでくくられているあの部分を、ざくりと切り落とす瞬間が好きだ。
普段からお団子にまとめて髪の毛を結っている女の子を見ると『あの玉ねぎ部分を、ゴムで結んだ根元から切り落としたら、どんな髪型になるんだろう』と想像してしまう。ある程度長髪の人にしかできない髪型だ。しっかりとした束に鋏を噛ませることになるのだろう。ハゲが怖いので自分の頭でやろうとは思わない。
そんな実現することのない衝動を、野菜が入っている袋を切ることで解消している節がある。
炒め終わった野菜たちを牛肉を煮ている鍋に投入する。ここからしばらくすればビーフシチューの素を入れて、かき混ぜるだけで全工程が終了する。実質料理が終わったので、煮込み時間を使って洗い物を始めた。
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ビーフシチューは無事に出来上がった。お玉ですくい上げて器に盛る。こんなに汁気少なくていいのか?野菜は多いし、牛肉は塊でしか拾えない。まあいい。そしてここで新たな疑問が発生する。
「ビーフシチューって、米にかけないやつか」
かけちゃった。
見た目カレーだけど、まあいいや。
「いただきます」
野菜いっぱいのルーと米を頬張る。一口目。少しスパイスっぽい風味がある。おいしいよはるみ。牛肉は鶏肉には好き度は及ばないが、食べると幸福感が口の中に広がる。たまにしか買わないが今日は吉日だった。直感に従ってよかった。
半ば義務的にアミノ酸源として摂取している味噌汁も、なかなかおいしい。これとヤクルトによるプラシーボで、私は毎日健やかに過ごすのだ。
「うま」
もそもそとカレーもどきを味わう。『この料理の名前は何でしょう?』某番組のように目隠しして食べさせられたら、一口では意外と答えられないかもしれないな。
スプーンは口と皿を往復し続ける。