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映画との3度の出会いが作った今の私

私がこの世を去るときに、私の人生において欠かすことができなかったものを思い出すとしたら、その一つは、絶対に「映画」です。

枯れ専な若き時代

けっして豊かとは言えない家庭に生まれたけれど、私は子どもの頃から映画が身近にありました。
小さい頃一緒に暮らしていた叔父は、古い映画のパンフレットやチラシをたくさん持っていて、それを見せてもらったり、淀川長治さんの日曜洋画劇場や深夜枠で放送していた「風と共に去りぬ」や「大脱走」「タワーリングインフェルノ」などを一緒に見たりしたものです。そのおかげで私は自分が生まれるより前の50年代60年代の映画やS.マックィーンやJ.コバーンの渋い魅力に惹かれた変わった子どもとして育ったのです。
特にお気に入りは「ウエスト・サイド物語」ベルナルド役G.チャキリス。高校生の時、彼が来日した時は、司会が小森のおばちゃま、観客も妙齢のおばさま方、という中、今でいうJKな私がかなり目立っていたのもいい思い出。でもあのショーで、映画の「ナカの人」が本当に生きているんだ、って思えて、さらに映画が好きになりました。

絶望の中のわずかな楽しみ

そんなふうに気づいたら「映画好き」になっていた私ですが、当時はまだ映画館に行くことはなかなかハードルが高く、テレビで放送される映画を楽しみに観るくらいでした。

その「楽しみ」が大きく変わったのが今から30年あまり前、私が20代の時のこと。
それまで突発性難聴を繰り返しながら進行してきた私の耳がとうとう音を失ったのです。
進行性で「いつかは来る」と覚悟していたはずでしたが、やはり「音のない世界」は味気なく、楽しいことなんて何も無くなってしまったような絶望的な日々でした。
音楽はもちろん、テレビを見ていても、セリフも分からない、話も分からない、イライラの元になるだけ。
大好きな映画だって、当時テレビで放送する映画は吹き替えがほとんどだったので、楽しむことができなくなりました。
そんな、人生の途中で、これまで当たり前にできていたことができなくなって生きる気力さえなくしかけていた私を励まし、楽しい気持ちを持たせたいと考えた両親がプレゼントしてくれたのが当時サービスを開始したばかりだったwowowのアンテナとデコーダーでした。wowowでは、外国映画もドラマも吹き替えでなく字幕。
音が聞こえなくなった私は「字幕付き映画」との出会いで、また「映画好き」に復帰、音のない世界にいても楽しいことを見つけて、大袈裟でなく、生きる希望ができたのです。
こうして、プロフィールの「趣味」に「映画」を書けるようになった私ですが、そこには小さく(字幕付きの洋画に限る)と但し書きが必要でした。

その後、テレビのデジタル化で、地上波で放送される日本映画も吹き替え映画もCC(クローズドキャプション)の字幕で観れるようになり、私の映画鑑賞はテレビ中心、、劇場に足を運ぶことはほとんどありませんでした。
まだ幼かった子どもたちが、仮面ライダーやプリキュアを観たいと言っても、私は連れていくことはできますが、鑑賞後、子供たちと語り合うことができません。自ずと、夫担当となり、家族の中で話題に乗れずに寂しい思いもしたものです。

スクリーンで観る感動に

それが大きく変わり始めたのが今から10年前。
「字幕メガネ」との出会いでした。
劇場で上映される映画のデータに字幕や副音声の情報を「透かし」で入れることで、そのまま見ると何もないのに、特別なメガネをかけると字幕が映り、スマホを通すと副音声が聞こえるという近未来的なシステムが東京国際映画祭の企画で紹介されたのです。

正直、詳しい仕組みはよく分かりません。
でもこの「字幕メガネ」によって、私の「映画ライフ」は一転。
今では劇場公開される日本映画のほとんど、コメディもサスペンスもアニメも、あらゆるジャンルの作品が字幕メガネ対応になり、私は観たい映画を観たい時に映画館で楽しむことができるようになったのです。

私の人生に彩りを

映画は「娯楽」であり、空気や水や食料のように、生きていく上でなくてはならないものではありません。
でも、多くの人が映画を通して、自分の知らない地や知らない生活や知らない人生を観て、泣いたり、笑ったり、時に考えさせられたりします。
それがその人の人生をより豊かにしていくのだと思うのです。

そしてそれは障害がある人だって同じ。
いえ、障害ゆえに行動や見聞きなどに制限がある人にこそ、映画がもたらしてくれるものは大きな意義を持つと言えるかもしれません。
だって、映画の登場人物が自分の代わりに、自分にできない、いろいろなことをしてくれるんですもの。

私は、珍しいもの、気になったものをとりあえずやってみないと気が済まない性分なので、趣味と言えるものがたくさんあります。
でも、生涯にわたって楽しみ、大事にしていたいと思えるのは映画との時間なのです。

素敵な音楽も、俳優さんの声も聞くことはできなくなってしまっても、あらゆる手を使って映画を楽しんでいる私。
エンドロールを見ながら、往年の映画評論家・水野晴郎さんのように「いやぁ、映画って本当にいいもんですね」と呟き続けることでしょう。

さぁて、次は何を観に行こうかな。

最新の字幕メガネシステム

#映画にまつわる思い出

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ぶーみおちゃんぷ
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