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『どんなチームでも、幸せになれる』と信じること~bookwill「小さな読書会」第6回レポート ゲストキュレーター:及川美紀さん(ポーラ社長)~

  新旧のカルチャーが交差する街・蔵前を拠点に生まれたブックアトリエ「bookwill」では、多様な世代の女性たちが安心して参加できる招待制の対話型読書会を企画しています。

  2023年12月11日(月)の夜には、ポーラ社長の及川美紀さんをゲストキュレーターに招き、『幸せなチームが結果を出す』(前野マドカさんとの共著、日経BP)をめくりながらの読書会が開催されました。メンバーがハッピーに働き、かつ成果を出すチームをつくるために、マネジャーはどうあるべきか。及川さんご自身の経験に基づくアドバイスを、じっくり聞ける贅沢な時間が始まりました。


◆bookwill 小さな読書会◆
10代の中高生、キャリアを重ねたマネジャーやリーダー、研究者など、多様で他世代な女性たちが集まる読書会。7〜10人で一つのテーブルを囲み、肩書きや立場を置いてフラットに対話を楽しむ形式です。参加者は事前にゲストキュレーター指定の「テキスト」を読んだ上で参加し、感想をシェア。本をきっかけに対話を重ねていきます。

 
<第6回「bookwill 小さな読書会」開催概要>
2023年12月11日(月)
ゲストキュレーター:及川美紀さん(ポーラ社長)
テキスト:『幸せなチームが結果を出す』(前野マドカさんとの共著、日経BP)
 


 この日の読書会に集まったのは、広告代理店でブランディングを担当するMさん、保険会社に勤めた後に学術の世界に転身したOさん、新聞社から独立してビジネス書の翻訳者として活躍する土方奈美さん、研究職歴20年以上の山田亜紀子さん。経験を積んできた分野は多彩ですが、「チームマネジメント」や「上司や部下とのコミュニケーション」は共通の課題です。
 大企業で組織運営の最高責任者である「社長」を務める及川さんが考える「幸せなチーム」のつくり方を学べる本とあって、参加者が持参したテキスト(課題図書)には「ふせん」がたくさん! 開始からホットな雰囲気で読書会は始まりました。
 

  あらためて、今回のテキストである『幸せなチームが成果を出す』は、及川さん所長が務める「ポーラ幸せ研究所」の調査と分析によって、「メンバー全員が幸せで結果を出すチーム」をつくるために必要なマネジャーの姿勢・行動のポイントをまとめた1冊。
 社長に就任した2020年、コロナ禍でエステサロンの通常営業が停止する危機に面し、「私たちが目指すべき幸せとは」「人間はどうあるべきか」という根本的な問いに向き合うに至ったことが、出版のきっかけとなったそう。 

   幸福学研究のアプローチで個人や企業のウェルビーイング向上をサポートする前野マドカさんの協力を得て、ポーラショップで働くメンバーを対象に調査したところ、ある“発見”があったのだと及川さんはふり返ります。
「当社が運営するポーラショップで働く女性たちは、一般的な働く女性の平均値よりも幸福度のスコアが高い傾向があったんです。ポイントは、職場のチームのうちマネジャーもメンバーも含めた全員が幸せを感じていること。では、『幸せなチーム』の共通点とは何なのかを導き出し、社会に役立つものとして還元しようと書籍化が進みました」

及川さんのもう一つの肩書きが「ポーラ幸せ研究所所長」。名刺の裏側には「幸せにつながる美容ルーティン5ヶ条」が

  参加者から「参考になった」という感想が特に寄せられたのが、本で紹介されている「幸せなチームづくり7カ条」。例えば、「ジャッジしない・正解を求めない」「相手を変えるのではなく自分が変わる」といったノウハウが解説されています。「職場だけでなく家族の関係にも応用してみたくなりました」(Nさん)といった声に、及川さんも「おっしゃるとおり」とにっこり。 
「日本でも女性登用が少しずつ進み、組織が多様化するにつれ、会社の人間関係もより複雑になってきましたよね。ここに集まった皆さんもきっといろんな悩みを抱えていると思います。でも、出発点はいつだって『どんなチームでも、幸せになれる』と信じること。『うちは無理』と思った時点で終わりなんです。『私たちのチームも、きっと幸せになれる』という前提に立って、『なぜ幸せになれないのか』と理由を考える。そして解決法を探っていくというチャレンジを諦めないでほしいと思います。そもそも“悩む”のは、『幸せなチームでありたい』と願っている証拠。今すぐは無理でも、時間をかけてでも取り組む覚悟があれば、必ず前進するはずです」
 及川さんの力強い言葉に、一同「ほぉ〜」と納得の表情を浮かべます。 

 この日、本をめくりながら対話を重ねる中で見えてきたポイントは、チームのまとめ役であり、メンバーの成長の支援者であるべきマネジャーのあり方(being)でした。
「調査分析で明らかになったことの一つが、カリスマ型のリーダーよりも、ちょっと頼りなくても周りに助けを求めるのが得意なリーダーのほうがメンバー全員の幸せな働き方に貢献できるということ。私自身もそうでしたが、マネジャーの役割を与えられたとしても“半人前”があたり前。完璧なリーダーなんてどこにもいないし、チームで補い合うことが全体の幸せにつながる。これがこの本を通して一番伝えたかったメッセージです」

  自分一人で頑張るのではなく、メンバーの力を借りて成果を出す等身大のリーダーを目指そう――。
 及川さんのアドバイスに、「それを聞けてホッとした」「マネジャーに昇進する前に知りたかった!」と感嘆を漏らす参加者たち。
 一方で、「弱みを見せたら、なめられてしまいませんか」と率直な疑問の声も。“おいちゃん”こと及川さんは「その気持ち、とっても分かります」と返します(この読書会では、肩書きや立場の違いを横に置いて、自分が呼ばれたい名前で呼び合うのが約束です)。 

 「私もかつて、営業の現場から商品開発部長に抜擢されたときに、未経験の分からないことだらけで不安がありました。分からないことを部下に知られては信頼されないのではという焦りです。でも、“役割”の違いを意識することでラクになりました。リーダーの役割は、チームが進むべき方針やビジョンを示すことであり、実務ではない。『私は商品開発の実務経験がないから、意思決定に必要な情報収集についてはあなたたちの力を貸してほしい。ただし、あなたが困ったときには、私はあなたがもっと動きやすいように助けることはできる』、そんな伝え方で信頼関係をつくってきました」


 

 加えて、ビジョンはチーム全員の合意形成のプロセスを踏むことが重要だというアドバイスも。
「メンバーに『それは及川さんが考えたビジョンでしょ』と受け取られてしまっては、同じベクトルで進めませんから。メンバー全員にとって、“自分ごと”に感じられるビジョンを整えるのが、リーダーの最も大事な仕事だと思います」

  ここまでのお話だけを聞くと、順調にリーダーシップを身につけてきたようにも思える及川さんですが、実は今も新たな課題に直面しているのだとか。
「今年1年かけて取り組みたいテーマは『リーダーの加害性』です。メンバーに対して、自分では良かれと思ってやっていることが、実は負担になってはいないか。常に客観的に引いて自覚する姿勢をもっと身につけなければいけない。意識を高めるために、パソコンのデスクトップの一番上の目立つ位置に『リーダーの加害性』というフォルダを作って資料を集めているところです(笑)」


  ほかにも、チームワークを強化するための全社をあげての対話促進プログラムなど、及川さんやポーラが独自に取り組んできた「幸せなチームづくりのための試行錯誤」の数々も惜しみなく。ますます対話が盛り上がる中、あっという間に夜も更けていき……。
 最後は及川さんからメッセージを皆さんへ。「マネジャーの立場だとしてそうでなくても、誰かとかかわりながら働いている以上、人間関係の悩みはつきもの。そんなときも、1対1の閉じた関係性だけで解決しようとは思わずに、チームの力を借りていけばきっと前に進むはず。自分自身も周りも幸せに、サステナブルに働き続けられる日々を送りたいですね」 

 次回のレポートもどうぞお楽しみに。  

 まとめ/宮本恵理子