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2024年5月18日 14:50〜15:20

対岸に岡山城の天守閣を見上げる旭川のほとりで書いている。月見橋を渡ったあと茶屋のわきの階段を降りてボート小屋の前を過ぎ、他の参加者がめいめいに腰を落ちつけたすき間を歩いて、川べりの歩道を下流へと進んで来た。対岸の真正面に岡山城が見えるところまで歩くと、歩道がとぎれ、後楽園の外周に沿った遊歩道へあがる階段をのぼることになる。いちど遊歩道まであがってほかの参加者がいないことを確認してからひき返し、石段の踊り場からさらに数段おりて、下から10段目に腰をおろして9段目に足をおいた。ひさのうえのノートをひろげて緑色のボールペンで書き始めた。乗代さんにもらった大人の鉛筆をきょうは忘れてきた。階段の傾斜と並行に走るこげ茶色の手すりは5センチ径のパイプ4本からなり、パイプが25センチ間隔で並んだ奥に、細い枝を根本から4本のばした低い樹の葉々がその先の川面を覆い隠している。おだやかな風をうけて、さまざまな方向に小さく波うつ、複雑な文様を描いた水面が深いグリーンと明るい白の間を行き来してみえる。前回スケッチした時にくらべて川の水が少なく、水面が低くなった分明るい色の石組みが多くのぞいて、岸辺にグラデーションが生まれている。土手の斜面の石垣は樹々のみどりにすっかり覆われ、高く積みあがった黄土色の石垣のうえに金烏城のどっしりとした座り姿がみえた。城は五角形のうちの三つの面がこちらから確認できる。天守三階の屋根に据えられた金のしゃちほこがまだ強い15時の順光を浴びて白く燃えていた。午前中雲ひとつなかった空は西にいくにつれて白雲が濃くなり淡いグラデーションを描いている。うすい雲のむこうでも直視できない明るさの太陽が左岸の土手に張り出した枝葉のむこうにゆっくりと隠されていった。右手にせまった石垣はブルーグレーの小ぶりな石組みで、上端はスエコザサの群れにフタをされていた。座っている段をおりた先には、6人の参加者がそれぞれキョリをとって座っていて、彼らのあいだに、「お持ち帰りできます」「テイクアウト」と大きく書かれた黒と緑ののぼりが風をうけて身をくねらせている。不思議だったのは白ストライプが3本入った赤い三角コーンで、なぜか白い土台にたてられたポールに刺さったかたちで宙にうかんでいた。そのそばで県庁職員の関さんがスケッチをしていて、紺のTシャツの背に明るいオレンジで小さな文字がたくさん書かれているが、遠すぎて読めなかった。さっき階段でとなりに座っていたハエがノートを支えていた左手の甲にやってきて数秒間散歩をして去った。その間も右手のペンだけが動いて、ノートを持つ左手はぴくりとも動かさなかった。

この風景スケッチは、作家・乗代雄介さんを講師に迎えた創作ワークショップ『風景を綴る 写生文ワークショップ』の第1回にて作成されました。

このスケッチをもとに小説「センダンの向こうに」を書き、雑誌『アフリカ』vol.36に掲載されました。


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