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映画レビュー『ガーンジー島の読書会の秘密』
*8月30日公開の映画『ガーンジー島の読書会の秘密』を試写で観たのでで感想を書くことにする。これを読んで少しでも気になったらぜひ全国映画館に足を運んでほしい。
美しい映画だと思った。2つの意味で。
まず美しいのはその映像だ。島での暮らし、風景、秘密の読書会。そういった舞台設定のどれもが子供時代に読んだファンタジー小説のような感覚を生じさせる。そんな舞台に登場するはひとりの美人女性作家ジュリエット。とあるキッカケから読書会に参加することになったジュリエットは島に横たわる悲しい歴史に触れ、調べていくうちにガーンジー島に魅せられていく。
物語を追っていくうちに、自分もこの島に行ってみたくなるような、こんな島で暮らしてみたくなるような、そんな気持ちにさせられた。
2つ目に美しいと思ったのは人間だ。本作を観る前に注意が必要なのが、これはあくまで人間の話であって、本の話ではないことである。主人公が作家であることや読書会は重要な要素の一つであることは間違いないが、それはあくまでもドイツ軍に約5年もの間、占領されていた地での人々と都会の成功した人間との交流を取り持つ道具立てに過ぎない。
ふだん本屋ライターとして取材していると「本はコミュニケーションツール」ということを話す店主がいるが、本作はまさにそのことを示した良い例だと言える。本を介して人と出会う。もしかしたらそれが自分の一生を変えるものになるかもしれない。「この本が人生を変えた」という言葉がある。ほとんどの場合、「その本の内容が自分の人生観を変えた」という意味合いになることと思うが、本作の場合は「この本(チャールズ・ラムの随筆集)がもたらした人との出会いが人生を変えた」なのである。
この「本はコミュニケーションツール」という考えからは本そのものの世界に拘泥することなく重要なのは人間なのだというメッセージが込められているように思えて僕には好ましく思える。厳しい現実の中でも人と人との交流を素晴らしいものとして描く。女性作家や読書会という道具立てを通して人間賛歌を描く本作が僕には美しいと思えた。