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レティシア書房店長日誌

坂本麻人監督「ミルクの中のイワナ」
 
 先週の「燃えるドレスを紡いで」に引き続いて、記録映画「ミルクの中のイワナ」を観ました(京都アップリングで上映中)。色々と考えさせれ、そして何度も驚きました。
 イワナの命を森で支えていたのは、ハリガネムシという寄生虫だったという事実。ハリガネムシは、キリギリス、カマキリ、カマドウマらの昆虫に寄生し、やがて寄生した虫の脳みそを操り、水の中に飛び込ませるというSFもどきの活動をします。その虫をイワナが食べ、栄養をとっているのです。驚くべき事ですが、さらにイワナを巡る定説があります。氷河期、地球全体が冷えて海水温度が低下して、そこに北方の海から南下して日本にたどり着いた魚が登場します。産卵のために川を遡上する習性があり、川と海を行き来していましたが、約1万年前に間氷期に入り、海水温が上昇し、故郷に帰れなくなったものがいました。彼らは暑さから逃げるために山奥の狭い源流部分へと移動しました。そして、その川ごとに独自の変化をしていきました。それがイワナの祖先なのです。
 釣り人にとっては、「人知を超えた時間軸で生きる、この帰りそびれた旅行者は生命の秘密を背負った、はるか遠い存在」として、ただの魚ではないと思っている人も多いということです。映画は、そんな特別な魚であるイワナが、危機に直面していることを多くの研究者の言葉を通して描いていきます。
 

公式フィルムブック

 ところでこのタイトル、実は「森の生活」の著者ヘンリー・D・ソローの文章から取られています。ソローは、”A  Trout in the Milk"(ミルクの中の鱒)という言葉を『状況証拠の確かさ』を表す比喩として手記の中で使っています。「かつて牛乳の出荷量をかさ増しするために、ミルク缶ごと沢に入れて牛乳を薄める酪農家がいると噂されていたが、ある日ミルク缶の中から鱒が見つかったことが、”動かぬ証拠”となった。」というのが由来だそうです。
 ダム開発、乱獲、養殖魚の放流、温暖化等々、イワナを取り巻く危機を指し示す”状況証拠”がこれだけ揃っている現状を、このタイトルが表わしているのです。本作品に登場する12人の証言者から、種を守るとはどういうことかということが語られます。そして、イワナの抱える問題から、今、私たちが直面している多様性のあり方までもが浮かび上がってきます。
 映画公開を記念して、インタビュー等を追加して本作品のテーマを深く考察する公式フィルムブック「ミルクの中のイワナ」(新刊1650円)が入荷しました。

●レティシア書房ギャラリー案内
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」
5/22(水)〜6/2(日)「おすよ おすよ」よしだるみ新作絵本出版記念原画展

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
平田提「武庫之荘で暮らす」(1000円)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
「うみかじ7号」(フリーマガジン)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
益田ミリ「今日の人生3」(1760円)
島田潤一郎「長い読書」(2530円
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)


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