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レティシア書房店長日誌

マルグレート・オリン「ソング・オブ・アース」 
 
 ノルウェー西部の山岳地帯「オルデダーレン」。壮大なフィヨルドを持つこの渓谷に暮らすミクローエン夫婦と、雄大な大自然の姿を、夫婦の娘であるマルグレート・オリンが、一年間二人に密着して撮影したドキュメンタリー映画です。
 

 ドローンを駆使した撮影にまず、息を飲みます。そして、果てしなく広がる大自然の中にポツンと立っている人物を、カメラがとらえます。父親のヨルゲン・ミクローエンです。こういう画面を見ていると、人間ってなんて小さな存在なのかということがよくわかります。人間の他に、ここに生きる動物たち、馬や犬、猛禽類の鳥たち、さらには昆虫などが登場しますが、この惑星から見ると人間も彼らと同じなんだなぁ〜と思ってしまいました。
 本作品の主人公とも言えるヨルゲンは、84歳という年齢にもかかわらず、風の強い日も寒い日も、黙々とオルデダーレンの渓谷を歩きます。山の中腹から自分たちが住んでいる場所を見下ろしたり、川の淵に立ち止まって、奥に拡がる氷河を時間を忘れて眺めるのです。大自然をみつめる父親の目は、まるで家族や友人をみるように慈愛に満ちています。
 生きて、老いて、死んでゆく。そのシンプルな真実に、厳しい大自然を前に私たちは直面します。ヨルゲンは、自分の人生と最愛の妻、そしてこの地で何世代も自然とともに生きてきた人々の暮らしについて語ります。決して美しいだけの自然ではなく、山崩れなどで多くの人が死んでいる悲しい現実も娘に率直に語ります。この人の中にはどれほど深くて大きなものが積み重ねられてきたのだろう、とその静かな佇まいに尊敬の念を抱きました。

 近所に気の利いたお店などないようなところです。利便性とはかけ離れた土地ではありますが、夫婦にとっては豊かで、この上ない幸福を与えてくれる故郷なのです。
 山の中腹に、祖父が種を蒔いて育てた大きな木が立っています。そこら辺りでは抜きん出て高い木です。クリスマスシーズンになると、そこに発電機で丸い電球を灯し、クリスマスツリーとして飾りつけます。カメラは、その飾られた木と、そして麓にある二人の家を捉えます。誰もいない空間にポツンと光る美しいクリスマスツリーは、今なら誰かがすぐに写メをSNS等で発信するのでしょうが、彼らには興味のないことです。そこに暮らす人々以外に誰に見られることもなく、静かに立っているだけ。
 最新の撮影機材を用いて捉えた映像と重厚なサウンドが、息を呑むような壮大な世界へと観客を誘います。心が豊かに満たされる幸せな映画でした。

●レティシア書房ギャラリー案内
10/7(水)〜10/13(日) 槙倫子版画展
10/16(水)〜10/27(日)永井宏「アートと写真 愉快のしるし」
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮り2」


⭐️入荷ご案内
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)

森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」

いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)

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