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レティシア書房店長日誌
細川貂々「どうして死んじゃうんだろう」
著者は1969年埼玉生まれの漫画家。パートナーのうつ病を描いた「ツレが鬱になりまして」で注目されました。本作も、なかなか奥の深い作品になっています。著者の近しい人が自殺してしまいました。どうして死んだの、その死をどう受け止めるの?という切実な問題から本書はスタートしました。(新刊1760円)
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釈迦の高弟阿難と、著者の分身であるテンテンの二人を進行役にして、ブッダに始まり、ソクラテス、キリスト、オマル・ハイヤーム(ペルシアの学者)、キューブラー・ロス(アメリカの精神科医)、宮沢賢治などが登場して、古今東西の死をめぐる思索の旅が始まります。その旅を通して、死をどう考えるかを描いた漫画です。
ギリシアの哲学者ソクラテスは、その言論が国家の秩序を乱したとして、毒の入った盃を飲んで死刑になることが決定します。ソクラテスは自説を曲げず、謝罪することもなく死を選びます。その死の間際を訪れた二人に対して、彼はこう言います。
「納得いかなくてもな 人はみな死ぬ。」
そして二人に、生まれた時のことを覚えているかと問います。覚えていないというと、実は私も覚えていないと、こう続けます。
「つまり死ぬということは生まれる前のような意識になることかもしれん。 生まれてからいつのまにか自意識がめばえ、記憶が鮮明になり、いっぱしの人間になる。 しかし年月がすぎてだんだん記憶がおぼろげになり 自分が何かわからんようになり 消えてゆく」これが人の死だと説明します。
「ワシの場合は死の世界に行くことは『新しい経験』だと思っとる。 今まで誰も書き残してないし伝聞してない 誰も全く知らないことを体験できる でも自分がなくなってしまうので記憶としては残らない それが『死』じゃ どうせ一度は死ぬんだ それが今来たとてうろたえるものではない」そう言い残して毒を飲んだのです。
それぞれの賢人が考える死というものを、やさしく解説していきます。ブッダの教えにある「身念処」「受念処」「心念処」「法念処」という四念処の概念なんて、仏教入門書でも難しいはずです。
本書の最後を飾るのは、仏教のお経のはじめに出てくるこの言葉です。
「如是我聞」(じょぜがもん)
ブッダがこう言ったのだのではなく、阿難が私はこう聞いたのだという意味合いです。私の感じではこうだけど、あなたは違うかもと緩やかな言い方です。
各地のお寺にあるブッダ最後の姿を描いた「大涅槃図」。そこでは高弟阿難は、気絶していて情けなく描かれています。そんな彼が「如是我聞」と口を開いたおかげで「涅槃経」が今日まで伝わっているというのです。
「そんな阿難に負けないよう、私も私の「如是我聞」を語りたいと思いました。それが、この本です。私の大切な思い出と、これからの歩みを誓う言葉です。」と著者はあとがきに書いています。この本を読んで、自分なりに死を考えてください。
●レティシア書房ギャラリー案内
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展
9/18(水)〜9/29(日) 飯沢耕太郎「トリロジー冬/夏/春」刊行記念展
10/7(水)〜10/13(日) 槙倫子版画展
⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本3」(660円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)
森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)