レティィア書房店長日誌
高山羽根子「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」
山内マリ子、松田青子、高瀬隼子、永井みみ、山岡ミヤなど注目の若手女性作家は、新刊が出ればできるだけ読むようにしています。高山羽根子もそんな一人です。以前に「居た場所」をブログを紹介ました。今回ご紹介するのは、161回芥川賞候補になった「カム・ギャザー・ラウンド・ピープル」(古書/集英社1250円)です。長ったらしいタイトルは、ボブ・ディランの名曲「時代は変わる」の冒頭に出てくる歌詞をそのまま使っています。
”Come gather round People,where you roam and admit that the waters around you have grown"
「ここに集まっている、あちこちを彷徨うあなたたちよ、辺りの水がせり上がっている事に気づきなよ」という感じになります。
「時代は変わる」は、古い世代の人々に時代の変化を警告する曲です。だからといって、本作品が古い時代の人と新しい人の意識の差異を描いた内容ではありません。
一人の女性の人生の物語です。幼少の時、おばあちゃんは背中が一番美しいと思ったこと、下校中知らないおじさんにお腹をなめられたこと、中学時代、隣の古い建物にいる大学生に変なことをされそうになったこと、高校時代、話のつまらない「ニシダ」という友だちがいたことが語られます。
大人になった「私」はイズミという記録映像を撮っている女性に誘われたデモで、ハイヒールにドレス姿の美しい男性に出会います。それが成長したニシダでした。彼に見つかった私はまるで過去を振り切るように会場を逃げ出し、渋谷の街を疾走します。それで終わりです.......。えっ、というようなお話です。
複雑な感情や微妙な心の差異を扱うのは、リアルでもストーリー性のある語りよりも、この作品のような淡々とした感じで進行し、ふっと考える時を文章の隙間においてあるような作品の方が、心に踏み込んでくるのかもしれません。
「美しいニシダから、あんまり美しくない私は逃げている。なんのために?」でも、とりあえず私たちも一緒に逃げよう!渋谷の街並みを駆ける描写がリアルで、自分が今逃げているような気分になります。必死に逃げる彼女に、過去の記憶が追いついてくる、この独特の感覚が私は好きです。ぜひ、トライしてみてください。
●レティシア書房ギャラリー予定(年内)
11/15(水)〜26(日)「風展2023・いつもひつじと」(フェルト・毛糸)
11/29(水)〜 12/10(日)「中村ちとせ銅版画展」
12/13(水)〜 24(日)「加藤ますみZUS作品展」(フェルト)
12/26(火)〜 1/7(日)「平山奈美作品展」(木版画)
●年始年末営業後案内
年内は28日(木)まで *なお26日(火)は営業いたします。
年始は1月5日(金)より通常営業いたします。
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