レティシア書房店長日誌
万行紗衣「奥能登地震生活記」
「毎年十二月三十日か、三十一日に珠洲を発ち、帰省していた。 けれどもこの冬は珍しく年が明けてから帰省することになった。なので三十一日もバスツアーの食事を提供するレストランのバイトを入れていた。(中略)
一月二日に帰省予定だったので、車にガソリンを入れて帰ろうと思った。」
毎年神奈川へ帰省する著者にとっては、いつもの年末風景でした。そして帰省したら、その足で夫の一也さんと北海道に旅行する予定でした。しかし、翌日1月1日16時10分、能登を大地震が襲いました。「醒めない悪夢のような長い揺れがようやく収まる」と、地震直後の様子を著者は書いています。本書は、地元珠洲市高屋町に住む女性が震災から数ヶ月間のことを書いた日記を書籍化したものです。(2300円)
外へ出ようと思ったものの、玄関の扉が開かない......。なんとか飛び出し、「津波が来るなら数分以内だろう。ともかく、早く高台へ。」と避難を始めます。そして一家の車中泊が始まり、倒壊を免れた自宅に戻ったりしながら、少しづつできること、やっておかなければならないこと実行していく生活が続きます。
「一月十二日 ケイタイをケイタイしなくなって一週間は経ったと思う。ないなりに便利。というか気が楽だな〜」とか、
「一月十八日 8時20分。着替えて、山に行って、山の水で顔を洗って、水を汲む。山の水で生きる生活、すごくいいよね」と、精神的に少し余裕のある文章が顔を出します。
しかし、「二月二十二日 役所の秋葉さんにきいたら我が家は全壊判定らしい」とのこと。住んでいた家は役所から借りていた物件でした。全壊指定を受けると、役所は賃貸契約を解除の方向にあるらしいということで、二月末、相談に役所に向かいます。
「自宅避難を続けている私たちが契約解除となった場合、今のところ住む当ては特にないのでホームレスになる。」こんな風に次々と様々な難題がのしかかってくる日々を、著者は率直に綴っていきます。
そして月日が流れます。
「七月二十三日 横浜での生活を終え、五ヶ月ぶりくらいに珠洲に、珠洲に住むために帰ってきた。一也くんが日々送ってくれた写真や動画で、かろうじて珠洲と繋がっていた感覚だった。また珠洲で生活ができる。一也くんと毎日一緒にご飯を食べることができる。海にも潜れるし、リンゴのお世話もできるし、山の水で顔洗えるし、二次避難してて戻ってきたご近所さんにも会えるし、山も歩けるし、満天の星空も見える。」これが、「奥能登の生活、ふたたび」というタイトルを付けた日記の最後のページです。
著者は、まえがきで「この『令和六年能登半島地震』を経験した人はたくさんいます。同じ経験でも人の感じ方はそれぞれあり、どう感じるかに正解はありません。そんなひとつのサンプルとして、地震や避難生活をどう過ごしたか、お伝えできたらと思っています。」と書いています。
マスメディアが一方的に伝える報道ではなく、その時そこに生きていた人の生の声として貴重な記録だと思いました。
レティシア書房ギャラリー案内
1/22(水)〜2/2(日)「口を埋める」豊泉朝子展
2/5(水)〜2/16(日)ぢやむ提供「オリジナル豆本市」
2/19 (水)〜3/2(日)「あっこランド」ちいさな絵とちいさなお人形
3/5(水)〜3/16(日) まるぞう工房展
3/19(水)〜3/30(日)絵本「いっぽうそのころ」原画展
⭐️入荷ご案内
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)
古賀及子「気づいたこと、気づかないままのこと」(1760円)
ミシマショウジ「茸の耳、鯨の耳」(1980円)
comic_keema「教養としてのビュッフェ」(1100円)
太田靖久「『犬の看板』から学ぶいぬのしぐさ25選」(660円)
落合加依子・佐藤友理編「ワンルームワンダーランド」(2200円)
秦直也「いっぽうそのころ」(1870円)
折小野和弘「十七回目の世界」(1870円)
藤原辰史&後藤正文「青い星、此処で僕らは何をしようか」
(サイン入り1980円)
モノホーミー「自習ノート」(1000円)
コンピレーション「こじらせ男子とお茶をする」(2200円)
牧野千穂「some and every」(2500円)
マンスーン「無職、川、ブックオフ」(1870円)
笠井瑠美子「製本と編集者」(1320円)
奈須浩平「BEIN' GREEN Vol.1"TOURISM"」(1300円)
小野寺伝助「クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書」(825円)
佐々木みつこ「戦前生まれの旅する速記者」(1980円)
山口史男「植物群のデザイン」(1650円)
万城目学「新版座・万字固め」(1870円)
和山弘子「WADDLE YA PLAY」(1760円)
万行紗衣「奥能登地震生活記」(2300円)