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レティシア書房店長日誌

前田隆弘「死なれちゃったあとで」

 「面白くて途中で読むのをやめられない。前田さんの文書には、読む人を前へ前へと駆り立てる不思議なエンジンがある。」とは、帯に書かれた翻訳家の岸本佐知子の言葉です。本当に、この言葉通り。でもこの本はエッセイなのかな?なんか、私小説みたいな雰囲気もあります。(新刊1870円)

 著者は福岡市生まれのフリーランスのライターです。本書は彼が出会った、友人や知人の死、父の死をめぐって書かれています。
 最初に登場するのは、大学時代の友人D。「半年バイトして、半年遊ぶ。そういう生活が一生続けられれば最高です」と言い放ち、夢を持たないことを信条にしていたD。大学卒業後は疎遠になってしまった二人ですが、彼が死んだという知らせを受けます。しかも首吊り自殺だったと。葬儀の場で、Dのメモが見つかったとお父さんから聞きます。そこには「情けない人生でした」とポツンと書かれていたというのです。
「その言葉を聞いた瞬間、涙がこぼれ出た。死別の悲しみとは違う涙。悔し涙に近い。情けないって、そんな言葉で人生締めくくる奴があるかよ。どうせ死ぬなら、せめて楽しい思い出を振り返ってほしかった。死ぬ瞬間まで、情けなさに包まれていたなんて。情けない人生の中に、ささやかでもいいから何か灯りのようなものを見いだしてほしかった。」著者はこらえきれず、席を立ってしまいます。ここから、最後のお別れまでの情景が描かれてゆくのですが、辛い話ばかりなのに、どんどん読んで行けるのは、私小説のような感覚がどこかにあるからかもしれません。
 著者は福岡の出身です。そこに”太宰府のおばあちゃん”と呼んでいた母方の祖母がいました。101歳で天国へ旅立ちましたが、晩年まで自転車に自分が作った野菜を載せて駅前で売っていました。ある日、自転車で転んで怪我をして、自転車にもう乗るなと、商売も家族から取り上げられます。そして認知症が進み、入院。葬式では「大往生」という言葉が飛び交うのですが、生前ほとんどの親族は見舞いに来ませんでした。
 「生きがいを奪ってしまったこと。多くの親戚が見舞いにも行かなかったこと。それでいて101という数字に乗っかって全てをチャラにして、イノセントな気分でいること。葬儀場でも火葬場でも、苛立ちを持て余しながら過ごしていた」という著者の気分が、文章から伝わってきます。
 ここで著者はボーヴォワールの言葉を引用していました。「自分が選ぶにせよ、運命がわれわれを強いるにせよ、隠退して自分の仕事ーわれわれをしてわれわれたらしめる仕事ーを放棄することは、墓へ降りることに等しい」
いい言葉だな〜、ボーヴォワールを読んでるのか〜、と思ったら、「突然のボーヴォワール。『100分de名著』でたまたま見ただけです。でもやっぱりそれは人生の真理なのだと、番組を見て確信した。」と続いて書かれていました。おっ、著者もNHKの『100分de名著』ファンか!!私もよく見ています。なんか、距離が縮まりました。

●レティシア書房ギャラリー案内
4/10(水)〜4/21(日) 絵ことば 「やまもみどりか」展
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
平田提「武庫之荘で暮らす」(1000円)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
「うみかじ7号」(フリーマガジン)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
益田ミリ「今日の人生3」(1760円)

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