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レティシア書房店長日誌
菅啓次郎&小島敬太「サーミランドの宮沢賢治」(白水社新刊/2530円)
詩人の菅啓次郎と音楽家の小島敬太は、賢治の作品を原作とした「銀河鉄道の夜」の朗読劇を10年来続けてきた仲間です。二人は、賢治が北へ北へと向かおうとしていたことで意見が一致します。確かに、最愛の妹トシを亡くした後、賢治は「オホーツク挽歌」、「青森挽歌」、「樺太鉄道」(詩集「春と修羅」に収録)と哀しくも美しい作品を数多く残しています。
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録音の仕事を終えて、一緒にビールを飲んでいた時、きっと賢治は北に憧れていたんだと力説する小島に、菅は「よしっ」と「ラップランドの宮沢賢治をやろう」と言います。え?なんでオホーツクじゃなくてラップランドなの?それは、こういうことだ、と菅は書いています。
「妹が死んだ後北に向かいながら賢治は挽歌を書きました。青森、オホーツク、樺太。その短いサハリンへの旅が弔いの旅なら、北は死者たちとの通信が可能になる場所だと考えていたのではないかと思います。そんな特別な交流の場としての北を考えることもできるのではないでしょうか。 個人のレベルではないけれど、辺境の土地としての北は南から侵略され利用されてきました。北の人々は奪われ、近代国家によっていいように使われる。それは日本列島で起きてきたことだし、フィンランドでもそうなんじゃないか。でも北の人々には自分たちの文化や言語を守ろうという気持ちがあった。南からはラップランドと呼ばれてきた土地の人々のことです。そんな土地と人々のことを知りたい。」
ラップランドは、スカンディナヴィア半島北部からコラ半島に至る地域で、伝統的に先住民族サーミ人が住んでいる地域を指します。ラップランドの人口はおよそ200万人で、そのうち住民の5%程度がサーミ人であり、サーミ語を話します。多くは移動生活を営んでいます。彼らにとって食料でもあり、衣料にもなるトナカイは大事なパートナーです。彼らは、この土地をサーミランドと呼んでいます。
本書は前半「風篇」を小島が、後半「太陽篇」を菅が、この大地で感じたこと、賢治の北への思いを再認識したこと、氷上で賢治の詩を朗読したことなどを語ります。本書は、賢治の言葉と彼の魂を北極圏に連れて行こうと極北の地へと旅立った二人の旅行記であり、全く異質の土地で賢治の作品と交流することで、多くのことを見つめ直してゆくプロセスを淡々と書き綴った日記のようなものでもあります。
彼らと共に朗読劇を作ってきた柴田元幸が、この試みを、「宮沢賢治の<北>とフィンランドの<北>が旅なんて可能なのか、と思える時代にあって可能な限り誠実な旅の中でしなやかにつながり、みんなの<北>になっていく」と賛辞の言葉を書いています。
賢治の言葉を北に連れてゆく旅は、彼らの言葉がラップアランドにこだまして、賢治が最後まで求めていた「ほんとうの幸い」を見つける旅へとなっていきます。読者も一緒に、この真っ白い世界を旅するのです。
「隣にいる菅さんは、何も言わずに、白髪を靡かせ、ただ耳を澄ませているだけだった。それは、サーミランドでも変わらなかった。彼はいつでも、文明の力で守られることのない、不安定な『波打ち際』に素足で出ていって、目の前に広がる世界に驚き、ふるえていた。わたしよりも戸惑っているようにさえ感じた。立ちすくんだその背中から伝わってくる。わかった気になるな。耳を澄まし続けろ。」
「わかった気になるな。耳を澄まし続けろ。」心しなければならない言葉だと思いました。
レティシア書房ギャラリー案内
1/22(水)〜2/2(日)「口を埋める」豊泉朝子展
2/19 (水)〜3/2(日)「あっこランド」ちいさな絵とちいさなお人形
3/5(水)〜3/16(日) まるぞう工房展
3/19(水)〜3/30(日)絵本「いっぽうそのころ」原画展
⭐️入荷ご案内
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)
古賀及子「気づいたこと、気づかないままのこと」(1760円)
いしいしんじ「皿をまわす」(1650円)
黒野大基「E is for Elephant」(1650円)
ミシマショウジ「茸の耳、鯨の耳」(1980円)
comic_keema「教養としてのビュッフェ」(1100円)
太田靖久「『犬の看板』から学ぶいぬのしぐさ25選」(660円)
落合加依子・佐藤友理編「ワンルームワンダーランド」(2200円)
秦直也「いっぽうそのころ」(1870円)
折小野和弘「十七回目の世界」(1870円)
藤原辰史&後藤正文「青い星、此処で僕らは何をしようか」
(サイン入り1980円)
YUMA MUKUMOTO「26歳計画」(再々入荷2200円)
モノホーミー「自習ノート」(1000円)
コンピレーション「こじらせ男子とお茶をする」(2200円)
牧野千穂「some and every」(2500円)
マンスーン「無職、川、ブックオフ」(1870円)
笠井瑠美子「製本と編集者」(1320円)
奈須浩平「BEIN' GREEN Vol.1"TOURISM"」(1300円)
小野寺伝助「クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書」(825円)
小野寺伝助「クソみたいな世界で抗うためのパンク的読書」(935円)
佐々木みつこ「戦前生まれの旅する速記者」(1980円)
山口史男「植物群のデザイン」(1650円)