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レティシア書房店長日誌

ロブ・エプスタイン&ジェフリー・フリードマン監督「ナチ刑法175条」
 
 「男性と男性の間で、あるいは人間と動物の間で行われる不自然な性行為は、禁固刑に処される。公民権が剥奪される場合もある」
 これが1871年5月15日に制定された「刑法175条」です。ドキュメンタリー映画「ナチ刑法175条」は、ナチ政権下で男性同性愛者が弾圧されていた事実を、戦後も生き延びた六人のゲイと一人のレズビアンの証言を通して描いた作品です。
 

 この法律により約10万人が逮捕され、1万人以上が強制収容所送りになり、強制労働、暴行、人体実験などで亡くなりました。戦後の生存者は4000人ほどであり、本作の制作時に生存が確認されたのは僅か10名に満たなかったということです。
 ナチスが政権を取るまでのベルリンは、同性愛者にとっては天国みたいな街で、みんな自由に飲み、踊り、愛を交わしていたのだそうです。実際、オープンに生活を楽しんでいる当時の写真も登場します。が、ナチス政権は同性愛はドイツ国民を堕落させ、弱体化させる危険な病気と見なして、強制収容所に送り込んだのです。映画に登場する男性は、聞くに耐えない非人間的で酷い扱いをされたと証言しています。あまりに悲惨な地獄のような経験を、戦後も家族には明かせなかったそうです。
 さらに驚くべきことに、この法律は戦後も生き続け、東ドイツでは1958年まで(未成年は違法であり、解消されたのは89年)、西ドイツでは完全に廃止されたのは1993年だということです。だから、戦時中ゲシュタポに拘束されたゲイたちは、ナチスが無くなり、戦後新しい時代が来ても、再逮捕されていたのです。
 ナチスを描いた映画は、劇映画、ドキュメンタリーとも近年も数多く制作され公開されてきましたが、同性愛者の弾圧という視点で語ったのは、これが初めてではないでしょうか?
 インタビュアーは、ドイツの歴史学者クラウス・ミュラー。インタビューの合間に挿入される当時のナチスや、同性愛者の姿の映像も巧みに使用されていて、この時代の狂気を見事に描き出していました。なお、本作は1999年に一度公開されていて、今回はリマスターされての再公開です。


●レティシア書房ギャラリー案内
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6/5(水)〜6/16(日)村瀬進「植物から、本から」出版記念原画展
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子

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