レティシア書房店長日記
石川直樹「全ての装備を知恵に置き換えること」
冒険家石川直樹の本書は、2005年に出版されました。タイトルが心に突き刺さるような感じがしていて、読もう読もうと思っているうちに時が流れてしまいました。(古書1900円/絶版)
本書のタイトルは、今やアウトドア関連では誰もが知っている「パタゴニア」の創設者、イヴォン・シュイナードの言葉です。
「パタゴニアはカウンターカルチャーとしての理想を掲げ、団体よりも個人、ツアーよりも一人旅に重きを置く。オーガニック・コットンやヘンプ素材などを使ってシャツを作り、ペットボトルをリサイクルすることによってフリースを作った。何が必要かを考える前に『何が必要でないか』を考え、徹底的に使い手の側に立った装備を提供する。ぼくはパタゴニアの装備でアラスカやヒマラヤの高峰に登り、北米の川をカヤックで下り、星を見ながら太平洋の海を渡った。旅に行く際、どこかしらにパタゴニア製品をぼくが身につけているのはこのメーカーが作るものを心から信頼しているからである。」
著者がイヴォンに会った時、「私にとっての究極は何の道具も使わない”ソロクライミング”なんだよ。チョークもクライミングシューズもガイドブックも….。裸で登るのが究極さ。きみが興味を持っている古代の航海術と同じように、全ての装備を知恵に置き換えること。それが到達点だと思ってる。」と語りました。その言葉を受けた著者は思います。
「『全ての装備を知恵に置き換える』。それは過保護な日本の社会に、また科学技術に頼りきった現在の世界に最も欠けていることだ。」
アラスカ、チョモランマ、グリーンランド、そして北極。国内では沖縄、奥多摩、富士山。人間を拒否するような荒々しい自然、穏やかな森の中、砂漠を越えて国境を目指し、様々な自然、そこで生きている人たちとの交流を描いていきます。
「ようやく長い登りが終わろうとしていた。イエローバンドと呼ばれる岩稜帯を越え、頂上ピラミッドへ向かう稜線にたどり着いた。ここで少しだけ休みをとった。時計の針は深夜四時前を示していた。天を見上げると無数の星が輝いていた。 ぼくはもともと夜が好きだった。山の高みから遠くの街の灯りを眺めていると、気持ちが解放され、広々としていくのを感じる。チョモランマの稜線から街の灯りは見えないが、空にはそれをはるかにしのぐ光群が瞬いている。」
そう簡単には行けない場所に、著者は嬉々として出かけ行き、その美しさを簡潔な言葉で伝えてくれます。本書に収録されているのは、雑誌掲載の文章が多数を占めているのですが、巻末の初出一覧を見ると、アウトドア系の雑誌ではなく女性誌「oggi」でした。20代から40代向けのトレンドファッション誌に2年間掲載(2002年〜)していたのです。この冒険家を女性誌で紹介した編集者のセンスに感服しました。
「今まで地球上のさまざまな場所を通じて、旅の経験を描いてきたが、旅の原点はただ歩き続けることだ。何も持たず、黙黙と歩き続けること。全ての装備を知恵に置き換えて、より少ない荷物で、あらゆる場所へ移動すること。自分の変化を、そして身の周りの環境の変化を受け入れて、楽しむことこそ人間が生まれもった特殊な習性のひとつではないか。」
著者の哲学がよく出ている文章です。
●レティシア書房ギャラリー案内
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展
9/18(水)〜9/29(日) 飯沢耕太郎「トリロジー冬/夏/春」刊行記念展
10/7(水)〜10/13(日) 槙倫子版画展
⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本3」(660円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)
森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)