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レティシア書房店長日誌

チョ・ナムジュ「ソヨンドン物語」
  
 日韓で大ヒットした「82年生まれ、キム・ジヨン」の著者、チョ・ナムジュの新作です。(新刊1870円)

 舞台はソウルにある架空の町「ソヨン洞」。近年の不動産バブルやマンション購入、過剰な教育熱、所得格差といった社会問題が、住民の悲喜こもごもとともに描き出されてゆく連作集です。ソヨン洞に住む住人たち、ある住人はマンションの資産価値に振り回されて足元の生活が破綻していき、ソヨン洞の高層マンションに勤務する警備員が業務に関係ない面倒を住民から押し付けられてどうにもならなくなったり。又は、マンションのそばに建設される老人介護施設に反対運動を立ち上げた女性が、一緒に暮らしていた親が認知症になって主義主張がガラガラと崩れていったり、上の部屋で走り回る子供の足音が騒音の発生源なのに、下の階の階の住人から執拗に抗議を受け娘の精神状態がおかしくなっていったり。韓国だけでなく日本でも起こっていることですが、この連作を通じて韓国中間層のリアルを描いていきます。
 著者はこの物語を書いた目的をこんな風に解説しています
「以前よく通った路地や住んでいた町を久しぶりに訪れると、昔ながらの商店街も、一戸建てが密集していた場所も、空き地や小さな公園も、何から何までマンションになっていました。これ全部に入居するのだろうか、韓国人は全員ソウルに住んでいるのだろうか、と思うほどです。かくいう私もソウルで生まれ、ずっとソウルで暮らしてきたので、こんなことを言う資格はないのですが。 単にソウルだけの問題ではありません。日本も東京一極集中現象は慢性的な問題だと聞いています。こうした巨大な流れの中に身を置いていると、どこまでも無気力になります。」
 本作に登場する人たちに、明るい未来や将来の計画は見えてきません。格差、過剰な教育熱、暴力に翻弄される住人たちの生きる希望はどこにあるのか?読んでいて切なくなってきますが、古今東西どこも同様なのでしょう。
「『ソヨンドン物語』は韓国の不動産市場を批判したり、現代人の歪んだ欲望を告発したりする目的で書いた小説ではありません。私が伝えたかったのは、個人ではどうすることのできない時代と社会の不幸を前に、我々はどんな選択をできるのか、どんな態度を取るべきかという悩み、さらには人間らしさを失わずに生きる方法に対する問いかけでした。」
 そういう意味では、最後の「不思議の国のエリー」に登場するアヨンという女性。もう少しで生活する場を失い、路頭に迷う一歩手前でわずかな希望を見出し、「どうなるかわからないからアルバイトじゃない、ちゃんとした仕事も探してみる予定だ。それでも急がない、急ぐんじゃない、急ぐのはやめようと自分を落ち着かせた。」と決心する姿に、著者は希望を見出そうとしているのかもしれません。

●レティシア書房ギャラリー案内
10/16(水)〜10/27(日)永井宏「アートと写真 愉快のしるし」
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮り2」
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ

⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)

森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」

いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)

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