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レティシア書房店長日誌
朝倉かすみ「よむよむかたる」
北海道小樽にある古民家カフェ「喫茶シトロン」で月に一度開かれている、平均年齢85歳の超高齢者の読書サークル「坂の途中で本を読む会」。最年長は92歳、最年少は78歳で、人の話は聞かない、連絡は一度で終わらない会に、カフェの営業を引き継いだ28歳の安田が、会の企画進行役として加わります。読書サークルは発足20年を迎え、記念誌を製作しようと動き出しますが……..。
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著者の朝倉かすみは1960年小樽生まれ。2004年作家デビューし、2009年「田村はまだか」で第30回吉川英治文学新人賞を受賞しました。私は、この作家の本は初めて読みました。(新刊1870円)
物語は、安田の視点を通じて、坂の町小樽に住む老人たちが本を読み、大いに語り合うという「坂の途中で本を読む会」のメンバーの横顔を語っていきます。最初、安田は、老人たちの行動を見て老人とはこういうものなのかと大きなカルチャーショックを受けます。会長以外のメンバーは、まさえちゃんとしんちゃん夫婦、元中学校教師の通称シルバニア、同じく元中学校教師の蝶ネクタイ、いずれも86歳。埼玉から来た安田に、蝶ネクタイがいちいち北海道弁の解説をしてくれるのが面白い描写です。
「坂の途中で本を読む会」の活動内容は、1冊の課題書を決めて順番に声を出して読み、各自がそれぞれの解釈、すなわち、読みを語ってゆきます。タイトルの「よむよむかたる」は会の趣旨なのです。ユーモラスに老人たちの読書体験を描きながら、安田が小説を読むという行為の奥深さを発見していくことが浮上してきて、ちょっと小説論ふうの展開も出てきます。
今読んでいる本は、佐藤さとるの「だれも知らない小さな国」。少年とコロボックルの出会いを描いた童話を、会の老人たちは、助からない患者の元に現れて安らかな死をもたらしてくれる「おみとりさん」の伝説に絡めて読んでいきます。死の影が常にどこかに存在していて、元気でわがままな会員たちにとって、死がそう遠くではものではないことが伝わってきます。しかし、著者の語り口は常に穏やかです。何度も入退院を繰り返す会長のドタバタ騒ぎも、あぁこんなじいちゃんいるよね、と誰でも思い至ります。
実は、安田は小説家です。しかし、とある投書が原因で作家活動を中止して、小樽に来たのです。老人たちの読書会に出会い、当初は傍観者として参加していたのですが、次第に彼らに同化していきます。小説を書くことに疲れた主人公が、小説を読むことで新たな自分を見出していくのです。さらに彼自身の過去を発見する、という過程が加わってきます。高齢者たちの笑いに満ちた読書会を描くだけではなく、後半は複雑に展開してきます。そこが本書の最大の面白さだと思います。過去と現在のフィードバックの展開も見事です。
「つまり<おみとりさん>は生きがいと言っていい。生きがいほど死のお供にピッタシなものはありません。お茶漬けにお茶、遠足にオヤツ、そして死んで行くには生きがいがあって欲しいものあります!」これ、読書会での蝶ネクタイの発言ですが、名言です。
●レティシア書房ギャラリー案内
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮りII」
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ
⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)
森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
「ちゃぶ台13号」(1980円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)「ヴィレッジ・コード ニセコで考えた村づくりコード45」(1980円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)