見出し画像

レティシア書房店長日誌

レイチェル・ランバート監督「時々、私は考える」
 
 オリジナルタイトルは”Sometimes I Think About Dying"。主人公フランが時々考えるのは「死」です。でもそれは、おぞましいものではなく浜辺や森の苔の上や、大地に眠るように横たわっている自分の姿です。

 アメリカ太平洋岸北西部オレゴン州の港町アストリア、小さな町の小さな会社で、フランは日々パソコンに向かい合っています。仕事にものすごく情熱を燃やすわけでもなく、同僚の気楽なおしゃべりに付き合うわけでもなく、真面目に淡々とした毎日を送っています。そして一人、ポツンと離れて、時々静寂に満ちた死の風景に浸ります。
 だからといって彼女は、他人を拒絶しているわけでもない。どこかで、他者との交わりを求めているのです。そうでなければ、新しく入社してきたロバートに誘われて映画に行くこともなかったし、パーティに参加することもなかったはずです。誰かと心が通うことを求めながらも、一歩が踏み出せなくて空想の世界に逃げているのです。
 なぜ彼女が他者との交わりから遠のこうとしているのかという説明は、全くありません。ひたすらフランの日常を凝視して、彼女の心を思いやることになります。そんなフランを演じるのは、デイジー・リドリー。最近の「スターウォーズ」で、一人で大きな宿命に立ち向かう力強いヒロインを演じています。ここではその面影はなく、世間から距離を置いて生きる女性を見事に作り上げていて、しばらく同じ俳優とはわかりませんでした。
 映画オタクのロバートとの恋は、ぎこちないけれども、ゆっくりと進んでいきます。その小さな変化を監督は丁寧に演出します。時々登場する彼女の遺体の美しさと静謐感が、映画全体を覆っていて、何やら夢見心地でスクリーンの映像に巻き込まれていきます。いつの間にか不器用なフランに、私たちも寄り添っているのです。大作でも、問題作でもないけれど、監督やスタッフや出演者たちの思いの詰まったしみじみとした素敵な映画でした。
 

 蛇足ですが、初めてロバートの家を訪ねたフランが彼のCDライブラリーからチョイスしたのが、ジュリークルーズ。彼女の「ミステリーズ・オブ・ラブ」が流れます。デヴィッド・リンチ監督の「ブルーベルベット」で使われた曲で、私の大好きな曲でした。このセレクト、いいなぁ!

⭐️夏期休暇のお知らせ 8月5日(月)〜9日(金)休業いたします

●レティシア書房ギャラリー案内
7/24(水)〜8/4(日)「夏の本たち」croixille &レティシア 書房の古本市
8/10(土)〜8/18(日) 待賢ブックセンター古本市
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色』やまなかさおり絵本展
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展

⭐️入荷ご案内
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本2」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
「フォロンを追いかけてtouching FOLON Book1」(2200円)
庄野千寿子「誕生日のアップルパイ」(2420円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
「中川敬とリクオにきく 音楽と政治と暮らし」(500円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
「てくり33号」(770円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?