レティシア書房店長日誌
ラシャムジャ「路上の光」
博多の出版社「書肆侃々房」は、当初は短歌や俳句等の分野で新しい才能の作家を出版してきたのですが、昨今、海外の文学、しかも英語圏ではない国の文学作品を相次いで翻訳刊行してきました。その中の一冊、チベットのラシャムジャの「路上の光」(新刊2200円)は、8作の短編を収録したもので、どれも面白く読みました。
「ラシャムジャは、揺れ動く若者の心を繊細に描いた小説を得意とする作家で、チベットの若者の間で随一の人気を誇る。」と、翻訳を行った星泉が解説しています。「チベット語による現代文学の創作活動が本格的に始まったのは1980年前後と、まだ40年程度の歴史しかなく、今の文学シーンを牽引しているのは1960年代、70年代生まれの作家たちである。ラシャムジャもその一人として、続く世代に大きな影響を与え続けている。漢語の高い能力を持ちながら、チベット語で小説やエッセイを書くことにこだわるラシャムジャは、チベット語の表現の可能性を大きく広げたいのだと公言し、語彙、構成、文体、比喩、モチーフなどの様々な面で、先輩作家には見られない工夫を重ねている。」
初めてのチベット文学体験でしたが、洗練されていて、とても読みやすいと思いました。若い時の恋人にばったり飛行場で出会った二人のぎこちない会話をもとに構成される「四十男の二十歳の恋」などは、そのままトレンディドラマになりそうだし、新幹線で桜島に向かう女性の、今まで生きてきた人生を振り返る「遥かなるサクラジマ」も、ほとんど新幹線の中だけで進行する小説ですが、極めて映像的でした。日本の女性作家の作品と言われても、納得してしまいます。
一方、チベットの大自然を舞台にした「西の空のひとつ星」も収録されてています。
「太陽がすっかり沈み、山も谷もすべて黒い闇に包まれた。空も薄い藍色から深い紺色に変わり、北の空の諍い星も少しづつ明るくなってきた。諍い星が現れてしばらくすると、紺色の天空に星々がきらきらと瞬きはじめる。ありったけの星を呼び出して空をいっぱいにしてしまうというのが諍い星という呼び名のいわれらしい。それからしばらくすると、北斗七星や首曲がり星が、満点の星空に割り込んでくるのだ。」10歳の少年が父の足となって山で放牧の手伝いをしながら成長してゆく姿を、放牧の風景や自然とともに描いた作品です。
村でたった一人の羊飼いになった、15歳の青年の生きるものへの思いを描く「最後の羊飼い」もおすすめです。
この出版社からは、他にも面白そうな海外文学が出ているのでいずれご紹介したいと思います。
●レティシア書房ギャラリー案内
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」
4/10(水)〜4/21(日)下森きよみ 絵ことば 「やまもみどりか」展
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
_RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
飯沢耕太郎「トリロジー」(2420円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
中野徹「この座右の銘が効きまっせ」(1760円)
青山ゆみこ「元気じゃないけど、悪くない」(2090円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)