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レティシア書房店長日誌

川添象郎著「象の記憶」
 
 これは、裕福な家の御曹司の恵まれた人生記録だ、なんて言ってしまえば、それって面白い本なのと思われるかもしれませんが、飄々として新しいことに向かってゆく姿が、実に魅力的な一冊です。(古書1900円)
 

 著者は、1941年東京に生まれのプロデューサー。母親は原千恵子。戦前ヨーロッパで活躍したあのクラシックピアニストです。ちなみに母は世界的なチェリストと再婚するのですが、高校生だった著者は新聞の記事でそれを知るのです。寝耳に水です。父親と離婚したことすら知らなかったというから驚きです。
 父親は1934年パリに渡り、多くの文化人やアート関連の人々と交流した人物で、写真家のロバート・キャパは、父のアパートの居候でした。その父親の名前は、川添浩史。えっ!多くのミュージシャンが入り浸った伝説のイタリアンレストラン「キャンティ」の創業者?そうです。若きのユーミンが、深夜自宅を抜け出して通ったお店です。
 もうこれで、著者の精神的バックグラウンドがお分かりでしょう。さらに言えば、父方の曽祖父は後藤象二郎。坂本龍馬と組んで京都二条城に乗り込み、大政奉還の道筋を作った歴史的人物です。
 著者は学校を飛び出してフラフラしていた日々、父親の言われるままに渡米し、ショービジネスの世界に足を踏み入れ、フラメンコギターにのめり込み、オフブロードウェイの舞台「六人を乗せた馬車」に参加、そのままヨーロッパツアーに出かけます。
 「六人を乗せた馬車」は日本で公演されました。場所は、丹下健三のデザイン「草月会館」の地下にある「草月ホール」という小劇場。著者が知り合った映画監督勅使河原宏の父親の、草月流家元勅使河原蒼風が作ったこの劇場は、若き芸術家たち牙城になっていました。
 「この公演は、そのころの日本の若い先鋭的芸術家たちに大きな刺激を与えた。寺山修司主催の劇団<天井桟敷>、唐十郎が率いる<状況劇場>もこの公演を見て誕生した旨、聞いたことがある。」と著者は回想しています。
 その後、著者はヒッピー全盛時代に登場した反戦ミュージカルの「ヘアー」の日本版のプロデュースに抜擢されます。このとき、舞台の主役を務めたのは「ザ・タイガース」の加橋かつみでした。
 やがて、作曲家村井邦彦と組んでアルファレコードを創設して、荒井由実、サーカス、ハイファイセット等を世に送り出し、日本のシティ・ミュージックの土台を作り上げました。さらには結成当時は、どう売っていいのか誰もわからなかったYMOをアメリカに売り込み、ワールドツアーを成功させます。もう、キラキラ輝くような人生なのです。とは言え、おそらく多大な苦労を重ねられたはずですが、著者の文章には、そういう苦労話はほとんど登場しません。育ちの良さなのか、本人の性格なのかわかりませんが、やってきた運命には、なんのこだわりもなくホイホイと乗ってゆくところが、読んでいて気持ちよくなってきます。
 村井と立ち上げたアルファレコードの社是がふるっています。
「一、犬も歩けば棒に当たる 」「一、毒を食らわば皿までも」 「一、駄目で元々」 どこまで本気なのか…….?遊びのような仕事のような感覚で、世界を駆け抜けたショービジネス界の人物の疾風怒涛の物語です。
 蛇足ながら、著者は5回結婚し、女優風吹ジュンは著者の3番目の妻でした。子供が二人いましたがその後離婚しています。

⭐️夏期休暇のお知らせ 8月5日(月)〜9日(金)休業いたします

●レティシア書房ギャラリー案内
7/24(水)〜8/4(日)「夏の本たち」croixille &レティシア 書房の古本市
8/10(土)〜8/18(日) 待賢ブックセンター古本市
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色』やまなかさおり絵本展
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展

⭐️入荷ご案内
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本2」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
「フォロンを追いかけてtouching FOLON Book1」(2200円)
庄野千寿子「誕生日のアップルパイ」(2420円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
「中川敬とリクオにきく 音楽と政治と暮らし」(500円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
「てくり33号」(770円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)

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