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レティシア書房店長日誌
須賀ケイ「わるもん」
第42回すばる文学賞受賞作、須賀ケイ「わるもん」(古書900円)は、こんな風に始まります。
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「庭の水仙が咲いた寒い冬の日、父はお玉杓子でひょいと掬いとられるように、母の手によって箕島家からとり除かれた。」
箕島家は、本作の主人公純子ちゃんの家です。硝子職人の父がいつの間にか「箕島家」から取り除かれてしまったところから始まるのです。工場で汗を流して働く以外は全くと言っていいほど、縁側から動かず、家族のことを見なかった父はどこへ行ったのだろうという疑問が読者に芽生えます。
ガラス工場を取り壊し、着付け教室にして、何故だか笑顔が増えた母。家には寄り付かない姉の鏡子と祐子。ときどき現れる「ミシマ」さんという正体不明の男性。誰だお前、と叫びたくなってきます。そしてあるときから純子は父の痕跡を辿り始めるのですが....…。
主人公の純子はちょっと不思議な存在です。最初は小学生ぐらいかなと推測していたのですが、さらに読み進めていくと、えっ?えっ?もう20代の女性(28歳)であることが明らかになり、仰天しました。どこかで、こんな物語を読んだなぁと思い起こすと、今村夏子「こちらあみ子」の主人公あみ子です。「こちらあみ子」はあみ子の強烈なキャラクターが印象的な作品でしたが、本作は純子のキャラクターというより、純子の周辺に漂うコミカルで、奇妙で不思議で、どこか歪んでいるのに明るい世界がメインになっています。
「娘の純子と鏡子と裕子にとっては父、あるいはただの父親。母の凉子には夫、もしくは伴侶。戸籍上の氏名は箕島義春。昔の渾名は由紀夫。しかし家族にとってはいつも、悪者(わるもん)だった。」と、描写される父を糾弾する物語でもありません。
実を言えば、読んでいくにつれて迷路にはまり込んだような気分になって、話の筋を追いかけるのが困難になってくる小説でした。しかし、なぜか不思議な魅力を持っています。すべてが、純子の見たまま感じたままだけで進行してゆくので、こちらとしてはとても不安定な気分になります。彼女からは、家族はいつも危ういバランスで成り立っているものに見えるのかもしれません。そのバランスが崩れてグラグラと定まらない暮らしを、彼女を通して描いたものなのか?わからなさの割にはラストの清々しさには、感動してしまったのですが…….。
装画は酒井駒子ですが、その表紙絵のイメージとは異なる世界が展開していきます。ストーリー云々より、作品に漂う雰囲気を楽しんでください。著者は1990年京都生まれ、京都在住の男性です。
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