レティシア書房店長日誌
川端裕人「ドードー鳥と孤独鳥」
物語の主人公は飛べない二種類の鳥、ドードー鳥と孤独鳥です。前者は「不思議の国にアリス」に登場する重要なキャラクターです。と同時に、この鳥は「人類が最初に自分たちが絶滅させたと認識した野生動物」なのです。後者も存在すら危ぶまれていた絶滅鳥です。そして本書のテーマは、絶滅動物と、遺伝子工学で再び蘇らせることへの警告を模索した科学小説です。(新刊2970円)
始まりは、とてもとても素敵な少年小説です。主人公であり語り手でもある望月環(タマキ)は、小学四年生のときに房総半島南部の町へ引っ越し、そこでケイナちゃんと出逢います。タマキとケイナちゃんは、クラスで浮いた存在でした。級友とうまくコミュニケイトできないタマキ。一方ケイナちゃんは、初手から話を合わそうなどという気持ちを持ち合わせていない女の子でした。でも二人とも、生き物に対し尽きない関心を持ち合わせていました。二人の周囲には植物が生い茂り、昆虫から動物まで様々な生物が棲息する自然が広がっていました。彼らは自分たちなりのマップを作っていきます。
二人は動物図鑑も熱心に読んでいました。特に絶滅動物たちが載っている本が好みでした。タマキは身体が大きくのろまなので、自分がドードー鳥のようだと思い、ケイナちゃんは、人と距離を作り孤高を守っているような感じなので、孤独鳥だわ!と宣言します。
「『ドードー鳥と孤独鳥って………似ているよね』『そうだね、二人に似てる』 ドードー鳥と孤独鳥は、私たちに似ている。」しかし、二人の蜜月時代は終わりを告げます。タマキは科学系の記事を書く新聞記者になり、ケイナちゃんは、日本を出て気鋭の生物学者としてアメリカで活躍します。
入社五年目を迎えたタマキに、北米取材の仕事がまわってきます。その取材の合間に、とある研究財団で、絶滅種のゲノムを解読し最先端のゲノム編集技術を駆使することで、絶滅種を甦らせるという計画が始まっていることを知ります。このあたりから、本書は科学小説の趣を密にしていきます。正直、登場する科学用語に????な部分が少なからずありました。
帰国後、タマキは江戸時代に日本につれてこられたと伝えられるドードー鳥の消息を探ろうとして、取材、調査を進めていきます。
「1637年から38年にかけての島原の乱の後でポルトガル船の来航が禁止され、『鎖国』が完成しつつある時期に、唯一、交易が許されていたオランダ船によって、ドードー鳥が日本にもたらされた。」この辺りは歴史ノンフィクションを読んでいるような感じです。
別々の人生を生きてきたタマキとケイナちゃんでしたが、この鳥を巡って、再び再会することになります。 しかしケイナちゃんは、絶滅動物への思いが深くなりすぎ、学会からも遠のいて行動を先鋭化させていきます。クライマックスは、冬の北海道。ゴシックロマンス的な雰囲気の霧深い光景の中、タクマが暗闇の中で見たものとは……。
遺伝子組み替えの技術用語の理解ができなかった部分もありましたが、とても面白い長編小説でした。作家の語り口の巧みさにどんどんのせられて読んでしまいました。クローン人間、遺伝子組み換え、ゲノム解析といった最新技術の果てに見えてくるものは何か、私たちの倫理はどう答えるのかまで踏み込んだ作品でした。
●レティシア書房ギャラリー案内
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ・手編み
11/27(水)〜12/8(日)「ちゃぶ台 in レティシア書房」ミシマ社
12/11(水)〜12/22(日)「草木の色と水の彩」作品展
⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
「ちゃぶ台13号」(1980円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)
モノ・ホーミー「2464Oracle Card」(3300円)
古賀及子「気づいたこと、気づかないままのこと」(1760円)
いしいしんじ「皿をまわす」(1650円)
黒野大基「E is for Elephant」(1650円)
ミシマショウジ「茸の耳、鯨の耳」(1980円)
comic_keema「教養としてのビュッフェ」(1100円)
太田靖久「『犬の看板』から学ぶいぬのしぐさ25選」(660円)
落合加依子・佐藤友理編「ワンルームワンダーランド」(2200円)