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レティシア書房店長日誌

ミア・カンキマキ 「清少納言を求めて、フィンランドから京都へ」

 ほぼ500ーページの面白すぎる大著です。著者のミア・カンキマキは、1971年フィンランドヘルシンキ生まれ。編集者、コピーライターとして活動した後、本作品でデビューしました。2013年秋にフィンランドで出版されるや、ノンフィクションの枠を超えた新たな一冊として、多くのメディアで取り上げられ、圧倒的に女性に支持されました。(古書1500円)
 

 主人公は「私」、即ち著者です。仕事をやめ、日本にやってきます。一応、清少納言の本の出版に関しての研究ということですが、なんとなく京都へみたいな気分も大ありです。滞在期間3ヶ月。日本語力なし。そんな彼女が、ネズミやらムカデが出没する吉田山付近にある古びた下宿で、一癖も二癖もありそうな下宿人たちと繰り広げる京都滞在記です。
 「セイ、本当はね、私はあなたの本を全部読んでもいない。だって、まるでわからないことだらけだから。あなたが書いた人たちは誰?あの集団はいったい何?それにあの種々様々な官位。」と、難解な平安時代に飛び込み、”セイ”と友達にように清少納言に呼びかけ、彼女との距離を縮めてゆく様を、エッセイのように、日記のように、あるいは旅行記のように綴ります。つまりこれは、清少納言や「枕草子」についての研究書ではありません。
 「 [清少納言の言葉] 胸がときめくもの
  いい男が車を門の前にとめて、使用人にとりつぎを頼んだりしているとき。 髪を洗って、メイクをして、香を薫きしめた着物を着ているとき…見ている人がいなくても、充実感がある。 待つ人のある夜。風が雨足を窓にたたきつける音に、ふいにはっとする。」
 といった風に「枕草子」の文章が現代語に直されて登場します。もちろん著者のフィンランド語を、翻訳した末延弘子が日本語に変換したものです。
 「自由時間、紙ーかなり高価な貴重品だったー、創作できる社会環境も必要だった。文学的に才能のある宮廷女房たちにはこれら全てがあった。彼女たちは政治に参加することはなく、世の中を変える力もなかった。でも、観察したり、見たものを解釈したりするすばらしい機会を持っていた。こういった女たちにとって書くことは仕事でもあったのだ。」
 著者は、その時代を生きた才能ある女性たちを俯瞰します。当然、清少納言のライバル紫式部も登場します。今なら、本書を読みながら大河ドラマ「光る君へ」を観るのもいいかもしれません。
 「セイ、あなたの原本は、平安時代が終わる前にはなくなっていたと信じられていて、1100年代には様々なバージョンがたくさん出回っていた。初期の写本は、あなたが亡くなって五百年後に出ていたけれど、1600年代より前に印字された版本はなかった。つまり、この状況は例えば『聖書』のケースと全く同じ」多くの人が編集したもの、書き写したものが残っている状態を知りながらも、著者は清少納言の本質へと迫ろうとしていきます。
 「セイ、あなたたちが気高い厭世観を持っていたり、万物の儚さについて考察したり、もののあはれと名づけられた経験をしたりしたのは、多分いつもひどくお腹を空かせていたからなのよ。」と友人に伝えるように語ります。
 遥か昔を生きた女性と現代を生きる女性が、残された文字を通してコミュニケイトしようとしている姿がリアルで、今でいう”シスターフッド”ものの変化球的な面白さも十分備えた作品でした。

●レティシア書房ギャラリー案内
9/18(水)〜9/29(日)   飯沢耕太郎「トリロジー冬/夏/春」刊行記念展
10/7(水)〜10/13(日)  槙倫子版画展
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮り2」

⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本3」(660円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)

森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」

 

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