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レティシア書房店長日誌

ジミー・T ・ムラカミ作品「風が吹くとき」
 
 1987年アヌシー国際アニメーション映画祭グランプリを受賞した長編アニメ「風が吹くとき」が、大島渚監督による日本語吹替版でリバイバルされています。
 

 核戦争の恐怖を描いた作品は何本もありますが、これほど心に残る作品はありません。最初に公開された時も観ましたが、映画後半で老夫婦がゆっくりと放射能に身体を蝕まれてゆくシーンは、やはり鮮烈でした。
 レイモンド・ブリッグズが本作を書いた80年代初頭、アメリカとソ連が膨大な数の核兵器を保有し、軍拡競争を繰り広げていました。その不安な世界情勢が鮮明に描きこまれています。
 イギリスの片田舎で平和に暮らすジムとヒルダの夫婦。ある日ラジオで、新しい世界戦争が起こり数日内に核爆弾が落ちてくるという報道を聞きます。ジムは、政府の作ったパンフレットに従って自宅内にシェルターを作ります。指示書には、家の壁に60度の角度でドアを立て掛けて作りなさいと書かれてありました。これで大丈夫と、普段通りに暮らす二人。やがて、核爆弾が炸裂し、凄まじい熱と風が襲ってきます。その直撃をやり過ごした二人は政府の教え通りに自家製のシェルターで生活を始めます。しかし、徐々に放射能が二人の体を蝕んでいきます。
 

 人体の奥深くまで入り込み致命的な影響を与える放射線は、外傷がまったくないので、爆弾をやり過ごしたと思っていた二人ですが、徐々に徐々に発病し死へと向かっていきます。二人の体に赤い斑点ができてきて、めまいを感じたりして衰弱してゆく様子はゾッとさせられます。それでも二人は、いつものようにお茶を飲み、家を掃除しようとします。大丈夫、きっと政府が助けに来てくれると信じて。しかし、もう誰もいないのです。ラストカットの衝撃はぜひスクリーンで対峙してください。
 映画に登場する指示書は、全く科学的根拠のないものですが、実在していた冊子で、70年代後半から80年代初頭まで配布されていたというのです。そんなものを配布した政府への怒りが、ブリックスが原作を書く理由の一つになったみたいです。
 現在、京都ではアップリングで上映中です。未見の方は、この機会にぜひご覧ください。いや、広島・長崎の原爆記念日に全く感情のこもっていない挨拶文を読み上げた首相、あなたが先ずは観るべきです。核爆弾を落とされた国の首相のスピーチとはとても思えませんでした。

●レティシア書房ギャラリー案内
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色」やまなかさおり絵本展
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展
9/18(水)〜9/29(日) 飯沢耕太郎「トリロジー冬/夏/春」刊行記念展

⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本2」(660円)
些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)


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