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レティシア書房店長日誌

岡崎武志「明日咲く言葉の種をまこう」
 
 書評家の著者が、古今東西の書物(や映画)から、心に響く言葉を選び出し、エッセイ風にまとめた好著です。(春陽堂書店・古書900円)

 前書きに、とても素敵な文章がありました。少し長いですが、紹介します。
 「2020年の学習指導要綱によると、高校の国語において高二から『文学』が選択科目になるという。もう一つは『論理国語』と呼ばれる単元で、実用文を教える。実用文とは行政のガイドラインや駐車場の契約書などのことらしい。本気だろうか。この問題を取り上げた2019年8月17日の朝日新聞『天声人語』は『若い人が文学に触れる機会が失われていくのでは、との懸念が伝わってくる』と書いた。夏目漱石の『こころ』も、中島敦『山月記』も、梶井基次郎の『檸檬』も、茨木のり子の『わたしが一番きれいだったとき』も、その存在さえ知らないまま大人になっていく。教科書で出会わなければ、一生触れることさえない作家や作品がたくさんある。文学など、何も知らずに淋しい大人になっていく。そんな恐ろしいこと、ありか。私はあってはならないという立場にある。
 全部を隅々まで覚えている必要はない。登場人物の何気ない言葉やちょっとした場面、あるいは詩歌句の一行を、なんとなく覚えている。作品との出会いはそれでいいと思っている。どうせつらく厳しい人生が待っているのだ。その途上で膝を折り、地面に手をついた時、かつて心を躍らせた一節、一行を思い出すことがあるだろう。その時、微かでも熱い血が通う。その言葉のたいまつ一つを掲げて、また歩き始めることができるはずだ。
 ここに選び出した百編百言が、そんな『言葉のたいまつ』になればいい。」
 
 「平仮名でもの考えたら、ええねん」こちらは田辺聖子。「漢字で作られた言葉はおおむね観念語であるから、とくに、西洋の言葉を日本語に移し替えた場合、どうしても日常から遊離する。とくに男は漢字でものを考えがちだ。ときどき『平仮名』を交ぜてやると、風通しがよくなる。いかにも柔軟な田辺聖子らしい言い方だ。」と著者が解説しています。
 同じ、大阪出身の作家、津村記久子は「人生、酢でなんとかなる」と意味深な言葉を残しています。
 「スランプってないんですよ。トップに立とうと思ってませんから。」
これ、和田誠の言葉です。何気なく発せられた言葉が、その人を救うことになるような言葉ですね。
 その逆に、こんな厳しい言葉も拾われています。
 「世界はあなたのためにはない」
「暮らしの手帳」編集長だった花森安治が、社会に出る女性に向かって言った言葉です。「世界は、あなたの前に、重くて冷たい扉をぴったり閉めている。それを開けるには、じぶんの手で、爪に血をしたたらせて、こじあけるより仕方がないのである。」と女性たちへ贈っています。
 最後にもう一人。みうらじゅんの言葉。
 「人生ってそもそも『自営業」だからね」
そうですね、自分の人生を会社や仕事に置き換えた時、どんなことも、他人が責任を取りようがありませrん。全て自分で解決するしかないと考えると、まさに自営業です。上手いことを考えるもんです。
 本書は頭から読まなくても、面白そうと思ったところからどんどん読んでください。きっと心に届く言葉にいくつも出会えるはずです。

●レティシア書房ギャラリー案内
8/10(土)〜8/18(日) 待賢ブックセンター古本市
8/21(水)〜9/1(日) 「わたしの好きな色」やまなかさおり絵本展
9/4(水)〜9/15(日) 中村ちとせ 銅版画展

⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本2」(660円)
些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
夕暮宇宙船「小さき者たちへ」(1100円)
「超個人的時間紀行」(1650円)
柏原萌&村田菜穂「存在している 書肆室編」(1430円)
「フォロンを追いかけてtouching FOLON Book1」(2200円)
庄野千寿子「誕生日のアップルパイ」(2420円)
稲垣えみ子&大原扁理「シン・ファイヤー」(2200円)
くぼやまさとる「ジマンネの木」(1980円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
向坂くじら「犬ではないと言われた犬」(1760円)
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
坂口恭平「その日暮らし」(ステッカー付き/ 1760円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
ススキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り2090円)

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