見出し画像

レティシア書房店長日誌

黒沢清監督作品「Cloudクラウド」
 
 1 983年「神田川淫乱戦争」という、へんてこりんな映画を観ました。その翌年だったか、伊丹十三出演の「ドレミファ娘の血は騒ぐ」というポルノらしき作品。これらが黒沢清監督作品との出会いでした。なんか、変な気分だけが残った映画だったような記憶があります。そして1997年の役所広司主演「CURE」で、背筋が凍りすぎるぐらい凍る体験をして、もう二度とこいつの映画は行かない!と決心したものの、その後もズルズルと観てきました。結局好きなんですね........。
 

 彼の映画の世界を占めているのは、そこかしこに発生する「不穏な空気」です。当然、新作の「Cloudクラウド」にもそれは存在していました。吉井(菅田将暉)は、買い叩いて安く商品を仕入れ、高値で転売する”転売屋”でした。恋人の秋子(古川琴音)と湖畔の一軒家を購入して、転売業に邁進します。けれども彼の仕事ぶりには、なんだか熱がないのです。転売屋をしている目的もよくわからないのです。主演の菅田の、そういう雰囲気が見事です。
 吉井の商売が悪どすぎるとネットで噂になり、見つけて殺せという危ない文面が飛び交います。そしてある日、自宅の窓から自動車の部品が投げ込まれ、窓ガラスは粉々に破壊されます。さらに、彼の周りに正体不明の人物たちが出没しだし、ついには拉致されてしまい廃工場へと連れ去られます。
 「バーナーで顔焼いちゃおうよ」などと、ぞっとするようなセリフを吐きながら彼らは死刑の準備に突入するのです。一体何を考えるのかさっぱり理解できない連中なのですが、お互いの関係性は希薄で、なんとなく不条理な暴力的衝動が膨らんできたような集団です。映画から情感というものを完全に排除したら、こんな作品になるのですね。
 無機質な廃工場でのガンファイトは、緊張感がありすぎて、切り裂くような銃声が観客の心を切り裂いていきます。湧き上がる憎悪をじっと見つめるのが黒沢映画のモチーフで、後半は黒沢ワールド満載。吉井を助ける、自称”吉井の弟子”という青年も、なんだこいつと思うほど危ない人物で、躊躇なく拳銃をぶっ放すし、恋人の秋子も、彼の資金が入っているクレジットカードをよこせと銃片手の言い寄ってきます。その視線の怖いこと!
 現代ならどこにでもいそうな連中ばかりですが、黒沢はそれを社会問題として捉えるようなことはしません。怪しげな人間たちの吐く臭気のようなものを、こちらに提示するだけです。銃撃戦が終わっても、カタルシスは全くありません。あいつは誰だったんだ、何を考えていたんだ等々、モヤモヤした気分で劇場を出ることになります。そこがいいのです。

●レティシア書房ギャラリー案内
10/7(水)〜10/13(日) 槙倫子版画展
10/16(水)〜10/27(日)永井宏「アートと写真 愉快のしるし」
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮り2」

⭐️入荷ご案内
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本3」(660円)
おしどり浴場組合「銭湯生活no.3」(1100円)
岡真理・小山哲・藤原辰史「パレスチナのこと」(1980円)
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「てくり33号ー奏の街にて」(770円)
「アルテリ18号」(1320円)
「オフショア4号」(1980円)
「うみかじ9号」(フリーペーパー)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)

森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」

いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)

いいなと思ったら応援しよう!