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レティシア書房店長日誌

駒沢敏器「語るに足る、ささやかな人生」

 雑誌「SWITCH」の編集者を務めて、その後フリーに転じた駒沢敏器が、アメリカのスモールタウンを行き当たりばったりに訪問した記録が「語るに足る、ささやかな人生」(古書700円)です。

 スモールタウンとは何か。著者はこう解説しています。
「人口は、多くても1万人には満たない。せいぜいが3000人どまり、町のサイズはメイン・ストリートを中心に、縦横にわずか数ブロックほどだ。」
 あ〜、こういう町ってアメリカ映画によく出てきますよね。強い風が吹いていて人の気配がなく、老人が昼間からビールを飲んでいるような、感じ。
用がなければ通り過ぎてしまうような場所ですが、著者はアメリカ大陸の東から西に向かって車を走らせ、見向きもされないようなスモールタウンに行き、レストランで食事をし、モーテルに泊まり、そこで暮らす人たちにインタビューをしていきます。
 「すさまじい熱さだ。色の濃いレイバンをかけていてもインターステイト・ハイウェイは白く輝き、テンプル(眼鏡のつる)は灼けたようになっている。 2本目のミネラル・ウォーターを空けた。アリゾナでは雑草が枯れたまま生えてくる、という話を聞いたが、ここバッドランズには、そんな草さえない。鳥の姿も見かけないし、フロントガラスに虫も貼り付いてこない。ただとにかく、ひたすら何もない。巨大すぎて絶望しそうになる空と、水分の抜けきった岩しかない。しかもその岩は生命を嘲笑うかの如く、壁のように延々と続いている。」
 何十年も前、シスコからロスに向かって車で移動した時に、こんな光景に出くわしました。どんな人たちが暮らしているのか?と思った記憶が蘇りました。著者は、ふらりと立ち寄ったスモールタウンの様子を、人々の意見をうまく吸い上げて文章にしています。まるで、アメリカの短編小説を読んでいるような、あるいはロードムービーを見ているような気分になります。
 「確かに毎日そのものは単調だ。しかしその単調な生き方を支えるための理由が明確にあり、人と人のつながりが、単調さを帳消しにするような張り合いを与えていた。」本書には、とても個性的な人々が登場してきます。今の暮らしに愚痴をこぼす訳でもなく、淡々とマイペースで生きている姿が見えてきます。
 「自分の生きる道筋を明確に立て、そのための地歩固めを早いうちからおこない、日々怠けることなく地歩の上に功績を築き上げていく意志を具体的・実用的に持たなければ、その人はもはやアメリカ人ではなかった。アメリカ人ではないということはこの場合、誰からも共感を得られない。生きる意志のない人、という意味だ。」この旅を通して著者が実感したアメリカ人の本質をこんな風に表現しています。アメリカという大国の原点とも言える姿を、垣間見せてくれる絶好の一冊でした。


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