レティシア書房店長日誌
戸村文彦「まちの映画館」
映画が好きなので、休みの日にはよく映画館に行きます。映画関係の本もよく読みます。最近は映画作家論や批評集ではなく、その業界で生きている人の生の記録本が好きです。例えば、300本以上のピンク映画を監督した浜野佐知の「女になれない職業」(新刊2860円)、白鳥あかね「スクリプターはストリッパーではありません」(古書1500円)などは面白かったです。
そんな中から、兵庫県尼崎市にある映画館「塚口サンサン劇場」支配人の戸村文彦さん「まちの映画館 踊るマサラシネマ」(新刊1760円)を。この本を手に取ったのは、地元尼崎市の「小林書店」店主、小林由美子さんとの特別対談が掲載されていたからです。もうかなり前ですが、出版関係者から面白いお店だと紹介されて、一度お伺いしたことがあります。対談のテーマ「まちの映画館とまちの本屋さん」。
「最近では、『お客さんと喋るな』と言う大手書店があるらしいです。いらんことに時間使うなと。笑い話みたいやね。私は逆にお客さんといっぱい喋っている。」という小林さんに対して、戸村さんは「僕もお客さんに話しかけられたら、仕事の手を止めてでも話します。」と答えています。それ、よくわかります。私も大型書店の店長やっていた時、とにかく忙しすぎて、お客さんと話す機会などありませんでした。客商売で客と話せないなんてどうなん?
で、この映画館「塚口サンサン劇場」は只者ではありません!スゴイ!いや、猛烈に凄い!のです。映画上映中に、観客は踊り、クラッカーを鳴らし、紙吹雪が撒き散らされるというのです。映画は静かに見るものという常識が吹っ飛びます。その現場写真が最初にありますが、もうイベント会場のような盛上りです。
最初から、そんな劇場だったわけではありません。開設60年の2010年ごろ、この劇場は他の町の映画館同様に「沈没寸前の船」のようだったそうです。そこから、様々な企画を考え失敗しては再びチャレンジ、という試行錯誤の日々が続きます。そして出会ったのがインド映画でした。「恋する輪廻オーム・シャンティ・オーム」上映に際して、”マサラ上映”に取り組んだのです。”マサラ上映”とは日本の映画館でインド映画を上映する際に行われる応援上映です。紙吹雪が舞い、クラッカーが弾けるわ、大歓声が起こるわ、まるでライブイベントです。この劇場はそれに挑戦したのです。結果は上映3分で成功だと確信。大盛り上がりで終了です。
「本当にこの時から、塚口サンサン劇場は生まれ変わりました。今の塚口サロン劇場は、ここから始まったのです。」と著者は回想しています。そして、インド映画だけでなく、アニメであれ特撮ものであれミュージカルであれ、”マサラ上映”をしていきます。もちろん一方で、通常の上映は続けながらです。
そして、劇場は音響が生命線であることを認識し、大幅に劇場の施設を変えていきます。また、お金がないので、イベント実施の際には、スタッフがダンボールを使って様々な大道具を製作してゆくのです。本書巻末には作品が写真で紹介されていますが、もう、現代アートですね。こんな映画ではこんなことをした、あんなものを作った、と過去の体験が語れられます。どれもメチャクチャ面白そう!!
西部劇「マグニフィセントセブン」上映前に、舞台でウエスタンショーをやると決まります。その時に著者は撃たれる悪役をお客さんに頼みにいきます。「ちょっと頼みがあるんだけど」「何ですか」「あ。了解です。で、どんな感じで撃たれたらいいっすか?」
こんな会話している劇場なんてありませんよ。沈没寸前の状況から、お客様に支持され全国から人が集まってくる場所を作った人々の素敵な体験記でした。
●レティシア書房ギャラリー案内
10/30(水)〜11/10(日)菊池千賀子写真展「虫撮りII」
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ
11/27(水)〜12/8(日)「ちゃぶ台 in レティシア書房」ミシマ社
⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
加藤優&村田奈穂「本読むふたり」(1650円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
孤伏澤つたゐ「悠久のまぎわに渡り」(1540円)
森達也「九月はもっとも残酷な月」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」
いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
「ちゃぶ台13号」(1980円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「ヴィレッジ・コード ニセコで考えた村づくりコード45」(1980円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)
モノ・ホーミー「2464Oracle Card」(3300円)
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