
レティシア書房店長日誌
坂上友紀「文士が、好きだーっ!!」
2010年、大阪市内で開店した本と雑貨の店「本は人生のおやつです!!」は、とても面白いお店でした。当時、当店で毎年開催していた「女子の古本市」にも常に面白い本をセレクトして参加して頂いておりました。2022年、大阪から兵庫県朝来市に移転し、現在もそこで営業されています。店主は坂上友紀さん。関西人のノリ(兵庫県出身、同志社大学卒業)で、楽しいおしゃべりの時間を過ごした記憶があります。

そんな彼女の新刊「文士が、好きだーっ!!」(晶文社新刊1870円)です。登場する文士は、井伏鱒二、室生犀星、芥川龍之介、堀辰雄、神西清、立原道造という日本を代表する文学者たちです。こういう文学者のことについて書いた本って、私の体験では結構退屈するものが多かったのですが、本書は全く違いました。
「とにかく鱒二はかわいい!井伏鱒二は、かわいいのだっ!!」
井伏の紹介で、のっけに「かわいい」なんて言葉が飛び出すのは、このひと以外にはないでしょう。鱒二の一体何がかわいいのか?
「井伏鱒二のかわいさは、イエス!一目瞭然です⭐︎それは何かというと、ずばりフォルム(見た目)で『文士・文豪』というと厳しく感じるかもしれないですが、そのずんぐりむっくりとした外見は、よくよく見ればまことにキュート!」彼の体型から入るなんてのも、この本だけ。でも、決しておちゃらけな文士論ではありません。膨大な読書量を誇る彼女が、文士の描き出す世界をきっちりと把握して、読者に提示してくれるのです。彼女のいう”かわいい系文士”鱒二の文学の核心は、「それでも生きていく文学」です。
「醜い結末なわりに、淡々と綴られる文体によってそこまで悲しい気にもならず、むしろ『こういうことってあるかもな』と、妙に納得してしまう。そして読み終わったあとで心のなか(胃の腑のあたりかも)にずっしりと根を下ろすのは、なにがあろうと『それでも生きていく』という気持ち。これこそ、わたし自身が文学に求めるものであり、鱒二の作品群を読んだときに、強く感じるものなのです!」
そして二人目の”かわいい系文士"は、室生犀星です。
「……..か、かかか、かわいいやないかーいっ!!!」おいおい、大丈夫か?坂上さん。著者は、犀星の文学には乙女チックでロマンチストである面と、コッソリ覗き見るのが好きという性質があると考えます。
「この『乙女性』と『変態性』はどちらも犀星の人となりや文学を語る上では重大かつ重要なエレメンツであり、また際立って目立つところでもあります。しかし、それだけで犀星のすべてを語ることはできません。なぜなら彼をかたちづくるの根底には、当たり前すぎて目立たないけれどもしたたかに、『生活の犀星』というさらなる根っこがあるからです!」
家族の愛にも恵まれず、貧苦を体験した彼は「いついかなるときも、地面の一番低いところから空高くに輝く星を見上げることができた人である!」こうまで書かれると、彼の代表作「杏っ子」を読みたくなりますね。
本書は、このあと”かっこいい系文士”の筆頭という芥川龍之介へと続いていきます。取り上げられた文士の中で、「神西清」という名前は知りませんでした。ロシア文学の翻訳家で、著者は中学生の頃、ツルゲーネフの「はつ恋」の翻訳者として知ったそうです。堀辰雄と同じ旧制第一高校に通っていた親友でした。(著者はこの本で"ギャップ系文士"というタイトルで堀辰雄も紹介してます。)神西清は翻訳家で作家だったのです。
日本文学史のような本で、こんなに笑わされ、興味を持たされ、スルスルと読める本なんて、滅多にありませんよ。ぜひお読みください!ちなみにこの本には「!」が山ほど出てきます。!よりびっくりした時には「⭐︎」になっていて、坂上さんの口調を思い出し、その推しの強さに圧倒されます!!
⭐️臨時休業のお知らせ 勝手ながら2月12日(水)休業いたします。
レティシア書房ギャラリー案内
2/5(水)〜2/16(日)ぢやむ提供「オリジナル豆本市」
2/19 (水)〜3/2(日)「あっこランド」ちいさな絵とちいさなお人形
3/5(水)〜3/16(日) まるぞう工房展
3/19(水)〜3/30(日)絵本「いっぽうそのころ」原画展
⭐️入荷ご案内
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「新百姓2」(3150円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)
ミシマショウジ「茸の耳、鯨の耳」(1980円)
comic_keema「教養としてのビュッフェ」(1100円)
太田靖久「『犬の看板』から学ぶいぬのしぐさ25選」(660円)
落合加依子・佐藤友理編「ワンルームワンダーランド」(2200円)
折小野和弘「十七回目の世界」(1870円)
藤原辰史&後藤正文「青い星、此処で僕らは何をしようか」
(サイン入り1980円)
コンピレーション「こじらせ男子とお茶をする」(2200円)
牧野千穂「some and every」(2500円)
マンスーン「無職、川、ブックオフ」(1870円)
笠井瑠美子「製本と編集者」(1320円)
奈須浩平「BEIN' GREEN Vol.1"TOURISM"」(1300円)
小野寺伝助「クソみたいな世界を生き抜くためのパンク的読書」(825円)
佐々木みつこ「戦前生まれの旅する速記者」(1980円)
山口史男「植物群のデザイン」(1650円)
万城目学「新版座・万字固め」(1870円)
和山弘子「WADDLE YA PLAY」(1760円)
万行紗衣「奥能登地震生活記」(2300円)
モノ・ホーミー「頭蓋骨を散歩する」(1320円)
green birds「book like spotlight vol2」(500円)
清田隆之「戻れないけど、生きるのだ 男らしさのゆくえ」(2090円)
堂本かおる「絵本戦争」(2970円)