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レティシア書房店長日記

森田たま「石狩少女」
  
 古い少女小説に巡り合いました。本書は、昭和15年(1940年)7月に実業之日本社より発行された著者の半自伝的な長編小説です。今年1月にちくま文庫から復刻版が登場して、手に取りました。(新刊880円)

装画:坂巻弓華

この本のことを、千野帽子が「文藝ガーリッシュ」で、文学少女小説の最高峰と絶賛していたことを思い出したのです。森田たまは1894年札幌に生まれ、昭和初期の小説家・随筆家です。1962年には参議院議員としても活躍した女性です。
 本書の舞台設定は、明治末の札幌。主人公野村悠紀子は文学を愛する少女です。自分なりの人生設定があったのですが、決められた結婚、家族の無理解、封建的な社会の偏見等々の壁にぶち当たります。
 「女学校へはいるのは、良妻賢母になる修養をつむためだと小学校で教えられたが、悠紀子はそういうものになろうとは、一度も思ったことがなかった。で、自分は無理に女学校へはいりたいとは思わないが、ただ自分は将来学問で身をたてたいと考えている。」しかし、それは簡単にできることではありません。厳格な家制度があった明治の社会では、良家の娘は親の決めた結婚が当たり前で、仕事をするなどというのは論外でした。
 明治40年、著者は、北海道唯一の公立女学校である庁立札幌高等女学校に入学します。ここで、彼女の人生に影響を与える英語教師土井先生に出会います。小説の中でも、悠紀子 がそんな英語教師に出会います。そして彼女は、ある事件に巻き込まれます。投稿欄に自作が掲載されたことから、多くの女子と文通を始めます。その中の川原みず枝という人物がいて、しょっちゅう手紙のやり取りをしていたのですが、実は自分は男性であると手紙で告白します。それが思わぬ形で噂が広がり、学内でスキャンダルになってしまうのですが、そういう事件を乗り越えて、少女は少しづつ自分の人生を切り開いていこうとします。
 著者の森田たまは、紆余曲折を経て随筆家としての地位を得ていきます。昭和45年75歳で亡くなりますが、最後まで好奇心を失うことなく、人生を楽しんだ女性でした。この小説の最後で、悠紀子がいうセリフはこうです。「あたし、決して結婚なんかしないわ。決して結婚なんかしないわ」
この小説の大きな魅力は、自由奔放な悠紀子の青春時代と同時に、内面の変化を札幌の自然に重ねて描いていることです。札幌の夏の夜の寂寥感のような雰囲気、北海道の美しい自然が記憶に残る一冊です。
 なお、装画を担当した坂巻弓華の「寓話集」が、盛岡の書店BOOKNARDから出されています。(2420円)

●レティシア書房ギャラリー案内
11/13(水)〜11/24(日)「Lammas Knit展」 草木染め・手紡ぎ・手編み
11/27(水)〜12/8(日)「ちゃぶ台 in レティシア書房」ミシマ社
12/11(水)〜12/22(日)「草木の色と水の彩」作品展

⭐️入荷ご案内
GAZETTE4「ひとり」(誠光社/特典付き)1980円
スズキナオ「家から5分の旅館に泊まる」(サイン入り)2090円
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
創刊号「なわなわ/自分の船をこぐ」(1320円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
TRANSIT 65号 世界のパンをめぐる冒険 創世編」(1980円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」

いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
「つるとはなミニ?」(2178円)
「ちゃぶ台13号」(1980円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「ヴィレッジ・コード ニセコで考えた村づくりコード45」(1980円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)

モノ・ホーミー「2464Oracle Card」(3300円)
古賀及子「気づいたこと、気づかないままのこと」(1760円)
いしいしんじ「皿をまわす」(1650円)
黒野大基「E is for Elephant」(1650円)






 

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