レティシア書房店長日誌
映画「1秒先の彼」
宮藤官九郎脚本・山下敦広監督の映画「1秒先の彼」は、不思議で、なんとも幸せな気分になるオススメの一本です。オリジナルは台湾映画「1秒先の彼女」で、第57回台湾アカデミー賞で最多5部門を受賞したヒット作品です。宮藤官九郎は舞台を京都にして、オリジナルとは男女の設定を逆にしてシナリオを練り上げました。
郵便局で働くハジメ役の岡田将生は、ちょっと頼りなげで一人よがりだけれど優しい男。何かと言えば、ここが洛中ここからは洛外などと説明する岡田の京都弁は、地元の私が聞いても合格点をあげたいくらい頑張っています。
ところでハジメは、幼い頃より何をするのもどういうわけか他人より1秒早いのです。運動会のかけっこでも他の選手より早くスタートするし、漫才で笑うタイミングも他の人より早い。ある日、ハジメは路上ミュージシャンの桜子に一目惚れします。そして次の日曜日に、花火大会でのデートを約束します。ところが、当日の朝起きてみるとなんと月曜日。その大切な日曜日は消えて無くなっていました。どうすればいいかわからないハジメは、交番に駆け込んで「日曜日を失くした」と訴えますが、もちろん誰にも相手にされません。
さらに不思議は続きます。町の写真屋さんのショーウィンドウに、行ったことのない海岸で撮影された自分の写真が飾ってあるのです。えっ?どういうこと??
その秘密を握っているのが、ハジメとは正反対で、何事も1秒遅れるレイカという女子大生。彼女はハジメのいる郵便局にやってきて、毎日切手を一枚ずつ買って、封書を出しています。その封書がどこに宛てたものか、消えた日曜日はどこへ行ったのか、後半、私たちは切ないほどに健気なレイカに目が離せなくなります。彼女を演じる清原果耶が新鮮で魅力的。
1秒早い彼と1秒遅い彼女というタイミングが合わない二人が、徐々に重なってゆく様を山下監督は独特のオフビートな感覚で描いていきます。監督は京都のイメージを「せっかちなのにのんびり」と表現しています。せっかちな彼とのんびりの彼女が生きる、最適の場所ということでしょうか。
この映画のストーリーを他人に説明するのは難しいのですが、時間が停止して誰も動かない市内をレイカが疾走してゆくシーンや、ステキな結末など、魔法がいっぱい振りかけられたみたいな幸福感に浸れます。
人気脚本家の大森美香が「夏にぴったりの、ハジメくんとレイカさんの一瞬一瞬が愛おしくてたまらなくなる作品です」とコメントしています。
心が軽くなるような魔法がもしあるなら、この映画を見ている私たちの時間かもしれません。
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