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止まらぬガザの悲劇——国際社会に求められる対応と日本の選択
はじめに ガザの現状
僕の友人がガザ地区北部から脱出できぬまま、一年以上経つ。
毎日、目に飛び込むニュースに、心臓を鷲掴みにされながら、目を凝らす──彼らがいないか確認する為に。
慌てて、メッセージを送り、既読のつかぬまま、彼らの無事を祈るしかない日々。
無事であること、生きてくれているだけのことがこれほど尊いことだと教えてくれる僕の弟のような存在の友人──ガザは世界が見て見ぬふりをしている今も無垢な人々が犠牲になっている。
شهداء وجرحى، غالبيتهم من النساء والأطفال، جراء قصف إسرائيلي استهدف سوق عمر المختار بجوار مستشفى المعمداني وسط مدينة غزة. pic.twitter.com/qtAFmxsrqO
— أنس الشريف Anas Al-Sharif (@AnasAlSharif0) November 11, 2024
ロイターによれば、2ヶ月前の9月時点で、ガザ地区におけるパレスチナ人の死者数は約4万1,000人に達し、負傷者数は7万8,000人以上と報告されている。特に、子どもの死者は1万人を超え、約1,000人が四肢を失うなどの深刻な被害が出ている。また、がれきの下に埋もれたままの遺体が約1万人存在すると推定され、実際の死者数はさらに多い可能性がある。
同じく、ロイター2024/10/06の記事によると、ガザ地区の瓦礫(デブリ)は、国連による推計で約4,200万トンに上り、これはガザ地区の2008年から2023年の紛争で積み上がった量の14倍、2016-17年にイラクのモスルで発生した瓦礫量の5倍以上に相当する。この膨大な瓦礫は、エジプトのギザにある大ピラミッドを11回分埋め尽くせる量に匹敵し、毎日のように増加している。
瓦礫にはアスベストなどの有害物質が含まれている可能性が高く、空気中の粉塵を吸入することで呼吸器系への健康被害や将来的な癌リスクが懸念されている。世界保健機関(WHO)は過去1年間でガザ地区において約100万件の急性呼吸器感染症が報告されており、粉塵が汚染の要因である可能性が指摘されている。また、瓦礫からの漏出金属による土壌や水の汚染により、今後数十年にわたり癌や先天異常の増加が懸念されている。
Ahmad and Zahra Abu Sakheil, two journalists, were killed in an Israeli airstrike near Fahd Al-Sabah School at midnight. This follows the killing of journalist Khaled Abu Zir, who was working for a local radio broadcaster and was killed just yesterday. Abu Zir's death brought the… pic.twitter.com/jESwMmjQPI
— حسام شبات (@HossamShabat) November 9, 2024
一体、何人の人が虐殺され、何人のジャーナリストたちが真実を報道させないために虐殺され続けなければいけないのか?
国連特別報告者のフランチェスカ・アルバネーゼが再び核心を突いている
• これは「戦争」ではありません。二つの軍隊が戦っているわけではないのです。
• これは入植者による植民地的な占領です。
• これはジェノサイドであり、今すぐ終わらせる必要があります。
・今すぐイスラエルへの武器供給を止めましょう。手遅れになる前にパレスチナを承認しましょう。
UN Special Rapporteur Francesca Albanese once again nails it:
— Howard Beckett (@BeckettUnite) November 10, 2024
•It is not a ‘war’, there are not two armies;
•This is a settler, colonial occupation;
•It is a genocide and needs to end now.
Stop arming Israel 🇮🇱 today
Recognise Palestine 🇵🇸 before it’s too late. pic.twitter.com/ibKxQd4bNt
歴史的背景 イギリスのパレスチナ委任統治
1920年に始まったイギリスのパレスチナ委任統治は、国際社会において「植民地」という言葉が忌避されつつあった時代の表現に過ぎない。第一次世界大戦後、国際連盟は地域の「発展」を口実に、勝者である列強に敗戦国の領地を委任する統治制度を採用したが、その実態はあくまで植民地支配に近いものであった。
特にパレスチナにおいて、イギリスの統治は地域住民の自決権や意思を尊重するものではなく、むしろイギリスの戦略的利益を重視したものであった。イギリスはユダヤ人とアラブ人双方の期待を利用し、複雑な民族関係を巧みに操ることで自らの支配を維持しようとした。これが現代にまで続く中東問題の種をまく結果となった。
No Arab country (except Saudi Arabia and Yemen), however, enjoyed full independence; indeed all of them were largely still under the thumb of the British and the French, and none had fully democratic institutions, such that this pro-Palestinian opinion could express itself fully. When the British left Palestine in 1948, there was no need to create the apparatus of a Jewish state ab novo. That apparatus had in fact been functioning under the British aegis for decades. All that remained to make Herzl’s prescient dream a reality was for this existing para-state to flex its military muscle against the weakened Palestinians while obtaining formal sovereignty, which it did in May 1948. The fate of Palestine had thus been decided thirty years earlier, although the denouement did not come until the very end of the Mandate, when its Arab majority was finally dispossessed by force.
意訳
サウジアラビアとイエメンを除くアラブ諸国は、完全な独立を享受することはなかった。事実、ほとんどの国が依然としてイギリスやフランスの支配下にあり、完全な民主主義的な制度を持っていなかったため、この親パレスチナ的な意見を自由に表明することができなかった。イギリスが1948年にパレスチナから撤退した際、ユダヤ人国家をゼロから作り上げる必要はなかった。その仕組みは、実際には何十年もイギリスの庇護のもとで機能していたのだ。ヘルツルの予見的な夢を実現するために残されたのは、この既存の準国家が弱体化したパレスチナ人に対して軍事力を行使し、正式な主権を得ることであり、それは1948年5月に実現された。こうしてパレスチナの運命は、実際には30年前に決まっていたが、委任統治の終わりまで、その結末は訪れず、最終的にアラブ系多数派が武力によって追い出された。
歴史学者ラシッド・ハリディの述べていることからも、自明であるように、委任統治という美辞麗句の背後には、列強の利害が優先され、統治を受ける側の住民たちは自己決定権を持てないままに翻弄されたのである。この構造が長期にわたり地域の緊張と対立を生み出し、複雑な歴史的経緯を背負った現代の中東問題の背景を形成する一因となっている。
オスロ合意後、ガザにおけるイスラエルの影響力が変化し、現在の占領とブロック状態に至った経緯を簡潔に記載する。
オスロ合意(1993年)により、パレスチナ解放機構(PLO)とイスラエルは互いの存在を認め、パレスチナ自治区の一部自治を進める方針が確立された。この合意に基づき、ガザ地区とヨルダン川西岸地区の一部に限定的な自治が認められ、パレスチナ自治政府が発足した。しかし、その後もイスラエルはガザの空域や沿岸地域、出入り口を含む主要インフラへの支配権を維持し、軍の駐留も続いた。
2005年にはイスラエルがガザから完全撤退し、すべての入植地を撤去したものの、翌2006年にガザを拠点とするハマスが選挙で勝利を収め、ガザを実効支配するようになった。これに伴い、イスラエルとエジプトはガザの封鎖を強化し、ガザの出入国や物資の流入を厳しく制限する「封鎖状態」が現在まで続いている。この封鎖と頻繁な軍事衝突により、ガザは物資や経済活動が制約され、深刻な人道危機に直面している。この過程を通じて、オスロ合意後の一部自治は事実上形骸化し、ガザ地区は現在も厳しい統制下に置かれている。
簡易版パレスチナの100年
簡易的にスライドを作ったので置いておく。
※修正などお気づきでしたらコメントでお願いします。
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ガザ地区における人道的問題
さらに、現代のガザにおける人道危機に対しても、国際社会の対応が問われている。イスラエルの人権団体GISHAによれば、イスラエル政府はガザへの人道支援物資のアクセスを厳しく制限しており、GISHAを含む人権団体は2024年10月に高等裁判所への請願を通じ、ガザ地区への無条件の支援物資搬入を求めた。イスラエルによるガザ北部の検問所閉鎖や移動の制限が続く中で、住民たちはさらなる苦境に直面している。このような状況に対し、GISHAはイスラエルがガザ地区に対する義務を果たし、人道危機の悪化を回避するよう国際社会に強く訴えている。
ガザ地区北部の友人によれば、10人家族の彼らにとって1日半〜2日で消費してしまう量の野菜を購入すると日本円にして40,000円を超える。
売っている場所があればまだ良い方で、ほとんど手に入らない。
小麦粉は虫の湧いたものがわずかばかりに売られているだけだ。
国際社会の対応と連携の必要性
Mondoweissの記事も指摘しているように、「ガザは犯罪であり、国際法に対する違反であって、何十年も世界最大の屋外刑務所のように扱われてきた」。国際社会の多くの抗議にも関わらず、いまだ停戦が実現されず、住民は人道危機に苦しんでいる。ガザで始まったこの危機が地域全体に拡大し、さらなる憎悪や破壊を生み出している現状は、この問題の根深さを示している。特に「協調的な国際的連帯運動」が存在していれば、より早期に停戦を実現し、多くの人命が救われた可能性があったという指摘は、今こそ国際社会の団結が求められていることを強く表している。
その連携で一番厄介なのはアメリカだろう。
2024/11/13AXIOSによれば、イスラエルがガザへの人道支援を増やす措置を講じたことを受けて、アメリカのブリンケン国務長官は軍事支援の停止を見送った。国務省内では、イスラエルが要求を十分に満たしていないとの意見があったものの、ブリンケン氏は引き続き圧力をかける方針を選んだ。パテル副報道官は、イスラエルがアメリカの法に違反していると判断していないとし、対応を監視し続けると表明した。
個人的見解としては、アメリカが圧力をかけるだけで具体的な措置を伴わない姿勢を続ければ、ガザの人道状況改善は期待しにくい。イスラエル側の応じ方も限定的であり、支援増加の確実性は不透明だ。
なぜ、これほどまでにアメリカはイスラエルを支持するのか。
アメリカの対応と影響力
ガザ問題に対するアメリカの対応は、単なる一国の外交政策に留まらず、国際社会全体に多大な影響を与えている。アメリカ政府は長らくイスラエルの強力な支援者であり、軍事援助や経済支援を通じてイスラエルを支え続けてきた。このため、国際社会が一致してイスラエルに対し人道的措置を求める機会が制約されている面がある。
ドナルド・トランプ氏が次期アメリカ大統領に再選されたことで、ガザ問題やパレスチナ支援への影響が懸念されている。トランプ氏は以前の政権時代にエルサレムをイスラエルの首都と認定し、アメリカ大使館を移転するなどイスラエル寄りの政策を推進した。これはパレスチナとの和平プロセスに対する国際的な批判を招き、地域の緊張をさらに高める要因ともなった。こうした政策はイスラエル支持を強化する姿勢の現れであり、再びトランプ氏が政権を握ることで、アメリカのパレスチナ支援に関する立場も再びイスラエル寄りに偏る可能性がある。
アメリカ国内の福音派およびジェンタイル・シオニストの影響
アメリカ国内でイスラエル支援に大きな影響力を持っているのが、福音派(註釈1)のキリスト教徒やジェンタイル・シオニスト(非ユダヤ人のシオニスト註釈2)である。福音派の一部は、聖書に基づく終末論やイスラエルの「神聖な地」としての役割を支持する信念から、イスラエルへの強い支援を主張している。彼らはイスラエル支援のために多大な政治的・経済的なリソースを提供し、アメリカ国内のイスラエル政策に影響を及ぼしている。
プロテスタンティズムやピューリタンリズムと資本主義については以前投稿した。
ジェンタイル・シオニストもまた、宗教的信念や政治的要素からイスラエル支持を強化しており、イスラエルを「自由と民主主義の砦」と見なす立場から、パレスチナ問題に関してもイスラエルを擁護する傾向がある。
ジェンタイル・シオニズムは帝国主義に支えられた植民地主義の系譜にあるように思えてならない。
トランプ氏はこうした層から強い支持を得ており、彼の政策はアメリカの外交がイスラエル寄りに偏る一因となっている。このような国内の動きが、国際社会が一致して人道的解決を求めるための障害になっている現状は無視できない。
国際社会における独立した連帯の必要性
アメリカ国内のこうしたイスラエル支持の動きに対し、国際社会はアメリカに頼らない独立した連帯を築く必要がある。特に欧州諸国や中東のアラブ諸国が協調してガザの人道問題に取り組む姿勢が重要だ。アメリカのイスラエル支持が今後も継続される可能性がある中で、他の国々が一致団結してパレスチナの人権と平和的解決を求めることは、地域の安定と国際社会全体の信頼性を保つために欠かせない。
アメリカの政策がイスラエル寄りに偏っている現状では、国際社会が道義的責任を果たし、ガザの人道問題に対して独立した対応をとることがパレスチナ問題の解決に向けた第一歩となる。
パレスチナの国家承認と経済制裁
パレスチナの国家承認をし、イスラエルに対し侵攻、占領ではなく、侵略行為と見做すことが急務だろう。
シンプルに、イスラエル現政権のやりたい放題は人類への挑戦でしかなく、それを黙認することが如何に愚かな事かわからないリーダーはリーダー失格だ。日本政府はイスラエル政府に対して毅然とした対応を取るべきである。
具体的には、以下のような経済制裁措置を検討すべきだ。
対イスラエル輸出入の禁止
イスラエルとの人的移動の制限
イスラエルとの金融取引の禁止と資産の凍結
これらの非暴力的な経済制裁措置を講じることで、イスラエル政府に強い圧力をかけ、パレスチナに対する侵略行為の停止と人権侵害の解消を迫るべきである。国際社会が連帯して毅然とした対応をとらなければ、この状況は改善されることはない。
結論 日本の立場と課題
日本の岩屋毅外務大臣は、先日の記者会見で、パレスチナの国家承認について、和平プロセスの進展を見守りながら検討する考えを示した。具体的には、和平プロセスの各段階を踏まえつつ、適切な時期に国家承認を判断する方針を述べている。この発言は、パレスチナ問題に対する日本の外交姿勢を示すものであり、和平プロセスの進展に応じて柔軟に対応する意向を表明したものと解釈される。
提案と行動
しかし、日本が果たすべき役割は、発言に留まらず、国際社会と連携して具体的な行動を起こすことが求められる。例えば、日本は以下のような支援や外交措置を検討するべきである:
• 人道支援の増強:ガザ地区への医療資源や生活必需品の提供をさらに拡大し、日本が先頭に立って人道支援を行う。こうした支援は現地の被害を直接的に軽減するとともに、日本が平和と人権を重視する姿勢を国際社会に示す。
• 経済制裁の可能性検討:イスラエルに対して、輸出入制限や金融取引の凍結を含む経済制裁を慎重に検討する。これはパレスチナ支援のための圧力として機能し得るが、日本経済への影響も予測し、段階的な制裁措置とその影響分析を行うことが重要である。
• 国際フォーラムでの平和推進:国連をはじめとする国際機関で積極的に発言し、パレスチナ国家承認や和平プロセスの必要性を訴える。特に、アジア諸国や中東諸国と連携し、地域全体での和平推進を目指す。
日本の役割の意義と影響
これらの行動は、日本が人道と平和を重視する国であることを示すと同時に、国際社会における信頼性を高める機会でもある。日本が独自にパレスチナ支援や経済制裁を行うことで、国際社会全体に連帯のメッセージを伝えることができ、特にアメリカに偏りがちなイスラエル支援政策に対して異なる立場を示すことができる。
また、パレスチナ問題に関する日本の積極的な関与は、中東地域での日本のプレゼンスを強化し、将来的な資源供給や貿易にも良い影響を及ぼす可能性がある。平和的な解決を推進することで、持続可能な経済関係の基盤を築くことができるため、日本にとっても利益となると考えられる。
終わりに
日本政府には、現地の人々の苦しみに耳を傾け、国際社会とともに毅然とした対応を取る道義的責任がある。手遅れになる前に、日本が積極的なリーダーシップを発揮することこそ、ガザ危機の解決に向けた最初の一歩となるだろう。
戦争、紛争は国家や領土を裁くのではなく、常に双方の一般の人々が裁かれる。
パレスチナに非暴力による民衆の声を代表する政党が台頭したとき、イスラエルにとって真に恐る事態に映るのかもしれない──未完のデモクラシー、それはパレスチナの自由獲得だけでなく、日本もその危機に瀕しているように思えてならないのは、僕だけだろうか。
読者の方々へ
拙い文章をお読みいただきありがとうございます。
僕の友人、ハムザ・スベータくん(23)がいまだにガザ地区北部から脱出できておりません。
彼は幼い弟妹を支える為に必死に生きています。
彼にはたくさんの夢もあります。
どうか、お心寄せください。
QAスライドもあります。
註釈
1. 福音派:キリスト教の一派で、聖書を厳格に解釈し、終末論的な教えを重視する。特にアメリカの福音派には、イスラエルを「聖書の予言を実現する神聖な地」として支持する人々が多く、その存在を終末に必要な要素と見なしている。
2. ジェンタイル・シオニスト:非ユダヤ人でありながら、宗教的・政治的信念に基づいてイスラエルの国家としての存在を強く支持する人々のこと。イスラエルを「自由と民主主義の砦」として捉え、アメリカの外交政策においてもイスラエルを支援すべきだと主張する。
参考文献
https://gisha.org/en/aid-access-now/
https://www.axios.com/2024/11/12/gaza-israel-us-military-aid
『The Hundred Years' War on Palestine: The International Bestseller』Rashid Khalidi著
https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/kaikenw_000001_00095.html
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