短編連作『沈める寺』 あとがきのようなもの
民族の物語を語り継ぐことのない民族はやがて滅ぶ、とトインビーが確かどこかで書いていた気がする。
書物に書かれた歴史ではなく、神話や家族の口伝──物語や詩を誰かに語るとき、誰かの現実をほんの少しやさしく包んであげることもできるかもしれない。
そうして、じぶんたちの物語を大事にしていたら、他者の物語や神話、伝承、伝統、文化だって他者にとっての大事さに理解を示すこともできるかもしれない。
最終回を書き終えて、そのようなことをふと考えた。
いまをくぐり抜けるために逃げるかのようにして、ペソアとその異名者たちを追いかける物語。
祈り、希望、後半はたくさんのことを詰め込んだ。
全十四話は、どこからでも極力読めるようにしてみた。第一話から読んで頂けると、ところどころで伏線が少し回収されていくのも発見できるかもしれない。
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