ドイツの醸造家Nagiさん×東京の醸造家須合さん ~醸造家クロストーク~
2024年7月某日。ドイツのワイン醸造所にて醸造長を勤める永澤真人さん(Nagiさん)と、ブックロードワイナリーの醸造家である須合さんとのウェブ対談が行われました。
もともと1時間で設定されていた対談ですが、話は盛り上がり実に2時間を超える和やかな時間に。
それぞれまったく異なる環境、そして経歴を持ちながらも、おなじく「ワイン醸造」に携わるおふたりの対談。とても面白い時間となりましたので、ブックロードファンのみなさまにもナギさんファンのみなさまにも、この楽しい時間をお届けしたいと思います!
司会と記事はわたくし、すっかり新人…とはいえなくなりましたが業界ではまだまだひよっこ、ブックロード2年生の元新人マイコがお送りいたします。
それでは、ワイン片手にゆっくりどうぞ。
ドイツの醸造家|永澤 真人さん (Nagiさん)
東京のブックロードワイナリー|須合 美智子
まずは自己紹介から。
――さて。おふたりそれぞれ、同じくワイン醸造のお仕事をされながらもまったく異なるバックボーンをお持ちです。まずはそれぞれどのような道を通って今に至っているか、自己紹介もかねてお願いしてもよいでしょうか。
Nagiさん(以下 Nagi) では、わたしから行きましょうか。
――よろしくお願いします。Nagiさんは、もともと東京でサラリーマンをなさっていたと伺いました。
Nagi そうです。もとは東京で働いていたのですが、2014年、ドイツのガイゼンハイム大学に入学しました。2018年の2月に卒業してからは、プリンツザルムワイナリーで5年間、2023年からは現在のワイナリーに移っています。ワインの道を選んだのは…満員電車がイヤになった、と記載しておいてください(笑)
――承知しました(笑)それで今年、ついに日本にお戻りになられると。
Nagi そうですね。現場では醸造責任者を任されていましたが、ワイナリーが目指すワインの方向性やスタイルが、自分のできることと合わなくなってきたことがひとつでした。もちろん、プロフェッショナルとしてスタイルを合わせられないわけではないのですが、それを私がやっても仕方がないかなぁ…と考えたとき、日本に帰国する選択肢が出て来ました。
――ありがとうございます。日本でもワイン造りに携わっていただけるかもしれない、ということで、Nagiさんファン、そして日本ワインファンとしてはワクワクしています。
さて、実は今回の対談は、日本にご帰国されるNagiさんから『日本のワインの現状について率直に聞いてみたい』というお話をいただきまして、開かれることになりました。Nagiさんと須合さんは初めましてですので、ぜひ須合さんからも自己紹介をお願いできればと思います。
須合さん(以下 須合) マイちゃんの方が詳しい気がするけど(笑)
――まあまあ、そう言わず(笑)
須合 Nagiさんのように、すごい経歴はないからちょっと気後れしつつだけど…(笑)
Nagi いやいや(笑)
須合 2017年に東京の台東区でワイナリーを立ち上げました。ワインの勉強を始めたのは2016年で、それまでワインについて詳しいわけじゃなかったんです。もう、立ち上げることが決まってるから、とにかく「現場でこうやるんだよ」っていうのを、見て、聞いて、それでやってみよう、という感じで。
もともとわたしは、ブックロードの運営母体であるKsプロジェクトの飲食店で、アルバイトをしていたんですね。それで、Ksプロジェクトがワイナリー部門を立ち上げたんです。でも、造る人がいないっていう話を聞いていて。わたしとしては、「このひとたちと一緒に仕事をすると、楽しいんじゃないか」と思って手をあげました。なにをやりたいか、というよりも、誰とやりたいかだった。そこから毎日、体力勝負で大変だなぁなんて思いながら、次の8年目の醸造がはじまります。トライ&エラー…というよりも、トライ&トライで、今までやってきた感じですね。
――須合さん、確かワイン造りの研修先もご自身で探されたと。
須合 そうなの!普通さあ、会社がやる事業なんだから、提携先とかありそうじゃない。ここに行っておいで、とか。そういうのもまったくなくて、じゃあどうするの?って言われたから、自分で探すしかなくて…(笑)それで、自分で山梨に行って、そこで出会って、頼み込んでお世話になったのがマルサン葡萄酒さんでした。ほんと、なんでも自分でやるの、うちの会社は!(笑)
――(笑)
おふたりともそれぞれ、まったく違う道を通りながらも、今ワイン醸造という道が交差しているんだなということを思っています。さてここからは、今回の対談のメインイベントである、Nagiさんからの質問をいろいろと須合さんにぶつけていただきたいと思っています。よろしいでしょうか。
Nagi はい。よろしくお願いします。
須合 よろしくお願いします。
都市型ワイナリーの醸造のリアルって?
Nagi まずはシンプルに醸造量についてなんですが、確か日本では醸造の最低量が決まっていたはずなんですが、ブックロードさんは毎年クリアされているんでしょうか。
須合 そうですね。法律的には最低醸造量は6000リットルとされています。ちなみにワイン特区では2000リットルですが、台東区は特区ではないので、6000リットル必要です。本数でいうと年間約2万本。うちは、初年度からクリアしています。
Nagi 初年度からクリア…すごいですね。できるもんですか。
須合 できるというか、やるしかないというか…(笑)会社としてやっているので、利益を出す必要もありますし。
――すべてのワイナリーが超えられているわけではないかもしれないですね。仮免許の制度もあるので、そのあたり、なんとかやりくりしながらまわしている小規模ワイナリーのほうが多いかもしれません。
Nagi なるほど、法律を現場の回し方でなんとかしているというのはありますよね。
ところで、ブックロードさんは、醸造用のタンクはいくつくらいあるんですか?
須合 1000リットルが4基と500リットルが4つ。小さいタンクがあといくつかあります。多くは1000リットルでまわしていますね。
Nagi えっと…それで、年間2万本?あれ…まわります?
須合 うちは、8月から9月の上旬までは生ブドウを使います。そこから先は、ブドウを冷凍で保存しているんです。山梨に冷凍保存できる倉庫を借りていて、カゴごと冷凍してそこからブドウを運んできます。
Nagi なるほど!冷凍を。解凍は、自然解凍ですか?
須合 だいたい自然解凍するんですが、昔、そのまま置いておいたら野生酵母で発酵がはじまってしまったことがあって。そのときできたワインが、わたしにとってはあまりいい香りのワインではなかったんです。それもあって、自然解凍だけではなく、ときに暖房を入れてはやく溶かすこともあります。自然がすべていいわけではないと、そのときに学びました。
Nagi そうですよね。あれ?でも、年間2万本で、タンクが1000が4つと500が4つと…(計算をする間)えっと、その量だと、計算上は3回転でいけそうじゃないですか?
須合 えー、そうなの?!
――知らなかった(笑)
須合 でも、タンクはひとつ開けておかないといけないから、いつでもフル稼働させられるわけじゃないんです。濾過のためにひとつ開けておかなきゃいけないので、最大でも3つしか稼働できないんです。
――品種がそれぞれ違うことも大きいかもしれないですね。毎年10種類以上のキュベを造っているので、品種ごとに醸造すると、延べのリッター数と回転数が合わないというか…
須合 うんうん。でも、計算上は3回転でいけるんだ(笑)
――衝撃ですね(笑)
Nagi (笑)
そうしたら、1年間ずっと醸造している、みたいなイメージということでしょうか。
須合 そうですねぇ、本当はそうしたいわけじゃないんだけど…
――結果的に…(笑)
須合 ワインの醸造って、ずっと目を離せないかというと、そういうわけでもないじゃないですか。
Nagi はい。はい。
須合 毎日何かするかというと、そういうわけでもない。毎日チェックは必要だけど、それ以上やることがあるわけじゃない日もある。でも、やっぱり目が離せないんですよね。だから、タンクにワインが入っているあいだは、なかなか旅にも出張にも行けないんです。それもあって、今年も3月には終わらせたかったんですが、結局…6月頭まで醸造してました(笑)
――現実は厳しい(笑)
日本で醸造設備を整えるには。
Nagi もし日本で醸造をやるとなったときに、どのくらいの設備が必要か、ということを考えているんです。たとえば、もうワイナリーの建物からなにから全部用意するとなると、数億かかるわけじゃないですか。それで、たとえば物を借りたりとか、委託したりとか、そういうのがどのくらい可能なのか、と考えていて…
須合 なるほど。
Nagi たとえば、ボトリングって「ケグ」って使いますか?
須合 使いますね。でも、うちはケグ販売がメインにはなってないです。ケグ用の商品もあるんですが、ボトル売りのほうがメインにはなっています。ケグって、ボトルよりも値段が高いんですよ。
Nagi え、今日本ってボトルいくらくらい…?
須合 スパークリングだと170円くらい。スティルだと…一番安くて70円くらいなんですが、ここ1,2年は値上がりしてますね。
Nagi ああ、そうですよね。ドイツだと、60セントくらいが相場になります。ところで瓶内二次発酵などもされてるんでしょうか。
須合 ありますよ。というか、ブックロードのスパークリングはすべて瓶内二次発酵です。これまではデゴルジュマンができる設備が整っていなかったこともあり、澱は抜かずに2.5気圧くらいで出していました。ようやく設備が整って、2年ほど瓶熟したものをデゴルジュマンしたうえでリリースできるようになっています。
Nagi え、でも場所って…御徒町でやってるんですか?
須合 いえ、八王子に倉庫があって、そこでひと通りやっています。
Nagi なるほど!ドイツだとワイン醸造の分業が進んでいたりもするんですが、日本ではたとえば、スパークリングだけ委託する、ボトリングだけ委託する、みたいなことって聞きますか?
須合 「委託醸造」っていうのはよく聞くけど、ボトリングだけ委託する、みたいな分業は日本ではあまり聞かないかなぁ。確か、炭酸ガスの注入だけはどこかでやってもらえると聞いたことがあるんですが、持って行く手段がないなと思って、諦めました。タンクを移動させるにもリフトもないし、わたしひとりで動かすことができないんですよ。
Nagi でも、ボトリングの機械って場所を取らないですか?
須合 ん?
――あ、Nagiさんがおっしゃってるのは全自動のベルトコンベア状のボトリング機械でしょうか。
Nagi そうですね。
須合 あ、なるほどね。うちにあるのは、もっと小さいものです。
Nagi ああ!横に8本くらい並べるやつですか。
須合 えっと…4本ですね。
――想像よりも小さかった(笑)
Nagi (笑)
気になるフィルター事情と、「濾過」の大変さ
Nagi 「濾過」の作業について聞いてもいいですか。
須合 あ~濾過ね~!(笑)
――須合さんがいつもいちばん苦労なさる…(笑)
Nagi あの、これはあくまでわたしはなんですが、日本の濾過事情はちょっと独特だなぁと思っていて。近年、どちらかというとにごったワインが好まれるマーケットの印象だと思ってるんです。
須合 そうですね。そういうところはあるように感じます。ちなみに、わたしは…にごり系はあまり造りません。むしろ、できるだけ綺麗に濾過をしたい。フィルターは5ミクロンから0.45ミクロンまで用意しています。0.45まで行けることは多くないけど、3回は通しますね。うまくいけば1時間くらいで終わります。うまくいけば…(笑)
――実際は…?
須合 せめて夜までに終わろうと思って……そのうちに夜が明ける。
Nagi あるあるですね(笑)
須合 うちのワイナリーは年中醸造しているから、真冬でもやんなきゃいけない。そうなると、寒いんですよ!醸造所って。もうとにかく濾過は、いつもいい方法ないかなと思ってるし、いつだってうまくいってほしい。もう、こんなになるなら、いっそ全部無濾過で出せばいいとさえ思います(笑)濾過分のコストだってかからないし、その方が…気持ちが健全になると思う。
――気持ちが健全に(笑)
須合 そうだよ!(笑)でもそうすると、できあがったワインを見て、その健全な気持ちを維持できるかはわかりません。
Nagi そうですよね(笑)
日本のワイン業界の「横」の繋がりについて。
Nagi ところで、全然角度の違う質問をしてもよいでしょうか。
須合 どうぞ。
Nagi ワイン造りとは違うんですが、日本ではワイン造りに関するコンサルティング事業って、どのくらいあるんでしょうか。
須合 コンサルですか……うーん、答えにならないかもしれないんですが、ブックロードには、「ワインを造りたいんです」という人がたくさんいらっしゃるんですね。それこそ個人で「いつかやりたい」という人から、事業を立ち上げた方、役場の方までさまざま。わたしは聞かれたことには答えられるけど、そういうひとに教えてくれるひとが近くにいたらいいのにな、とは思います。
Nagi なるほど。
須合 ただ、ずっと教えてもらいたいかというと…わたしとしては、じゃあ「自分らしさ」はどこで出すのかな、と思っちゃいそう。わからない最初のときは居てほしいけど、結局は自分がやれることを増やしていかないといけないんじゃないか、というか。だから、欲しいのはどっちかというと単発的なコンサルというか、立ち上げのときのサポートというか…
結局は、そこにお金が出せないよね、というところにいってしまう。いくら払えばものになるのか、そこが見えづらいかなぁ。それに、「美味しいワイン」だから、売れるわけでもないですよね。
Nagi あぁ…
須合 美味しいじゃなくて、人気だから売れる。話題だから売れる。そういうワインに、出くわすことがあります。正直、わたしとしては、どうしてこれが売れてるのかがわからない、と思ってしまうときもある。そう思うと、(日本のワイン市場のなかで)本当の意味で「技術の向上」をどのくらい欲しているのかは、図り切れないところがある気がします。
Nagi それはドイツでも似たような現象は起きていますね。
須合 あとは、これは日本的なのかもしれませんが、お互いに聞きあうというか、業界をみんなで盛り上げよう、というところもあるかもしれません。感覚が閉鎖的というわけではないんですが、日本のワイン業界はまだまだ若いこともあって、わからないことは他のワイナリーに聞くと仲間内ですんでしまうんですよ。
Nagi なるほどね。
――現状の日本だと、どちらかというと「立ち上げ時のサポート」が多い印象でしょうか。家族経営のような小規模ワイナリーが多く潤沢な資金源がないなかで、「技術の向上」という“目に見えない”部分にどのくらい資金をまわせるか。ブルーオーシャンではあるとは思いますが、これから日本ワイン業界が成熟するにしたがって、育っていく分野かもしれませんね。
Nagi ワイン用ブドウの需要と供給のバランスはいかがでしょうか。足りないという話を聞くことがある一方で、「意外となんとかなっている」という印象もあるのですが。
須合 んー…あんまり「良い」状況ではないです。ブックロードは幸い、お付き合いいただける農家さんを見つけることができていますし、若手が頑張ってくれているのでしばらくお願いできそうなのですが、やはりブドウ農家さんの高齢化は進んでいます。やりたいけど、体力的に難しいと。わたしたちも、「アジロンダック」という品種は、農家さんから引き取ることが難しくなってしまいました。ワイナリーが造りたい品種と、農家さんが造りたい品種のミスマッチということも起きているのかもしれません。
Nagi 輸入原料を使うという選択肢もあるものでしょうか。
須合 海外からジュースで運んで来て、ということはありますが、大手のワイナリーが多い印象です。
Nagi ブックロードさんでは使わない?
須合 そうですね。国内の農家さんとのお取引を辞めれば、使うこともできると思います。ただ、それがわたしたちにとってどんな意味があるのか、と考えるとやらないと思います。「葡蔵人」というワイナリー名自体、「ブドウ(農家さん)と、人(まちのみなさん)を、わたしたち“蔵(ワイナリリー)”が繋げていきたい」というところから付けた名前です。誰が造ったのかわからない原料を使うことは、この先もないかな、と思います。
ワインを「売る」こと
Nagi いやあ…それにしても、あらためて2万本を売るのって…大変じゃないですか?
須合 そりゃあ大変ですよ!(笑)
――(笑)
わたしとしては、Nagiさんの現在のお仕事の状況と大きく違うところのひとつはここかな、と思うところもあるんですが、須合さんがこれまでどのように「売る場所」を見つけていったのか、お話いただいてもよいでしょうか。
須合 試飲を持って、酒屋さん1軒1軒を「こんにちは」ってたずねてまわってる。そうするしかない。本当はもっと効率よく売りたいけど、そういうわけにもいかないから、ひとケースとかそういう単位で、少しずつ売っています。
これを言うと驚かれることがあるんだけど、だって、造ったワインは売らないと来年のワインが造れないんですよ。わたしも最初の年、やっとワインができて、「で、どうするの?」って言われて。売るしかないよね、じゃあ、誰が?ってなって、ワイナリーはあたししかいなかったから、わたしが…って、自分で売りに出るしかなかった。
Nagi そうですよね。
須合 よく、ワインを造りたいです、という方から『売り先はどうしてるんですか?』って聞かれることがあるんですが、自分でお願いするしかないんじゃない?って思います。もちろん、売る人が増えればその分うちのワインが売れなくなるわけで、じゃあもう、そのまま売らなくていいよって思うけど(笑)
Nagi (笑)
須合 ときどき、「ワインは誰でも造れる」って言われることがあって。
Nagi ああ…
須合 でも、とにかくなにができようが、売ることのほうが難しい。しかも、必ずしも美味しいからといって、「絶対に売れる」わけでもない。もちろん、不味ければ売れないんだけど、そこがワインを売ることの難しさだと思います。
Nagi 不思議ですよね。食品なのに、必ずしも「味」が重視されるわけではない。
須合 本当に。日本は今、この狭い国の中に500を超えるワイナリーができている。どうやって生き残っていくのか、と考えたときに、果たして日本だけをマーケットにしてよいのか、どこに向けて情報発信をしていけば響くのかと、日々悩んでいるところです。
――海外における「日本ワイン」の需要って、どのような感じでしょうか。
Nagi ありますよ。興味がある方もいます。ただ、値段を見て気持ちが引いてしまうんですよね。
――あ~…
須合 そうなの?
Nagi とにかく高いんですよ。輸送費を考えると、ドイツだと約3倍になります。日本ワインは生産量が少ないためか、そもそも原価が高い。結果的に卸の値段がほとんど下げられないので、ほぼ小売りの3倍でドイツにやってきてしまうんですよ。そうすると、日本の通常流通品が、ドイツのトップクラスのワインと同じくらいの値段になってしまうんです。
須合 3倍か~!難しいね。
Nagi そう考えると、台湾や香港といった近い地域だとまた別かもしれませんが。「出すときの値段」を下げないと、なかなか海外で買ってもらうのは厳しい印象です。
日本における、ワインの消費
須合 それにしても、今年は在庫がたくさんあって…
――それはなかなか切実な(笑)
Nagi 日本でのワインの消費って、下がってるんでしょうか。実感としてはどうですか?
須合 うーん、実感として「下がってる」と感じることは多くないけど…海外から、安くて美味しいワインがたくさん入って来てるじゃないですか。
Nagi はい。
須合 ブックロードのワインって、1本だいたい3000円くらいするんですよ。
Nagi いや、それでも抑えてる方ですよね?
須合 かなり頑張ってますよ!(笑)でも、たとえばコンビニに行ったら、500円のワインがある。そうすると、3000円代のワインは「いつもは飲めない」ワインだから、『特別な日に飲みます』といったお客さまも多い印象があります。
Nagi なるほど。
須合 物価上昇による生活費の圧迫もじわじわ効いているかもしれません。ワインをまったく飲まなくなるほどではないにしても、これまで5本買っていたのを3本にしているとか、飲む本数自体を減らしているとか、そういうお話をうかがうことはありますね。
――どこにお金をかけるかはそれぞれの価値観なので、そこはどうしようもないですよね。
須合 でもさすがに、今年も今までと同じ値段でいけるかはわかりません。事業としてやっているわけだから、利益を生まないならば事業をしないほうがいい。ちゃんと原価を見て、値段設定をしていかないといけないと切に感じています。
Nagi いやぁ…難しいですよね。実際、ワイン1本あたりの原価って、実はよくわからなくないですか?
須合 そうなんですよ~。
Nagi だって、ワインの原価だけじゃなくて、そこには電気代、水道代、家賃だってかかってくる。
――売るものがワインだけだから、そこに計上しないといけないですよね。
須合 本当に。この原価計算が合っているのかどうかって、いつも自分を疑っています。
――そうなんですか(笑)
須合 もうねぇ、家賃が高いからどうしようもないのよ!
――うわ~…(笑)
須合 でも、家賃までワイン代に乗っけちゃったら一体1本いくらで売ればいいんだ、ってなるし…。そう思うと、本当に造る「前の」人脈づくりというか、売り先のあては大事。ワインはすぐ飲まなくたっていいけど、場所代はもう、借りたすぐからかかりますからね。切実なところです。
Nagi それは、本当によくわかります。
ドイツのワイナリーから、日本ワインの世界へ
――なんと、いつのまにか予定の1時間を大幅に超過してしまっておりまして…(笑)そろそろかなと思いますが、なにか最後にあるでしょうか。
須合 日本に戻って来られたら、ひとまず何をされるんですか?
Nagi いくつか声をかけていただいているお仕事があるので、まずはそこからかなと。でも所属などは特に決まっていないので、場合によっては住所不定無職の男性が爆誕するかも…(笑)
須合 えー!(笑)
――(笑)
須合 あ、でも、「こんなことやってます」って看板を掲げてもらえるとありがたいかも。今までも、ワイン造りを教えてほしいって言って来られる方はいらしたんですけど、じゃあどこに行けばいいよ、とかはわからなかったので。
Nagi そうですね…掲げられるように頑張りたいと思います。なににしても、今はまだ日本の状況が全然わからないので、まずはそこからかなと。法律にしてもなんにしても、知らないとなにかをやることはできないですからね。もともと「造る」側の人間なので、どこかでは自分で造れたらいいなとは思っています。もちろん、それが売れるのか、とは思うんだけど…(笑)
須合 今までって、どのくらい造ってたんですか?
Nagi 年間9万リッターくらいですね。本数だと、11万本くらいです。
須合 えー!11万!なんて天文学的な数字!
――(笑)
Nagi ドイツではこのくらいが、まあまあ普通くらいの規模感かなと思います。
須合 そうすると、日本に来ると規模感がまったく違うなって思われるかもしれませんね。本当に、いちいち、「えー!」っていうことがありそう。
――ぜひこれを機会に、また困ったことがあったら連絡を取り合っていただいたりとか。
須合 あ、そうそう!ぜひワイナリーにも遊びに来てください!
――きっと、狭さに驚かれるんじゃないでしょうか。
須合 狭さに関しては、右に出るものはいないです。
――間違いないです(笑)
Nagi ぜひ帰国したら、うかがわせてください!
須合 いつでもお待ちしてますね!
対談の終わりに
醸造家のおふたりのお話は、ときには経営の難しさに、またときにはワイン造りの苦労話にと、驚きと共感がたくさん詰まった時間となりました。おふたりが「わかります」とうなずきあうとき、わたしだけ置いていかれることもしばしば…(笑)
一方で、こんなに環境が違うのにも関わらず、響き合うものを感じる瞬間がたくさんあった時間でもありました。きっとおふたりともが言葉にされていない、楽しさややりがいが共通しているところがあるのだと思います。そんな心地よい通奏低音を聴くような、和やかな時間。
Nagiさん、日本にご帰国されたらぜひワイナリーに遊びに来てください!ご帰国されたNagiさんが、日本ワインをたくさん盛り上げてくださることを、わたしたちも今からとても楽しみにしています!
さて、わたしたちブックロードワイナリーでは、ついに2024年の醸造がはじまりました。ブックロードワイナリーのメンバーたちも、ぱつぱつに育った元気いっぱいのブドウたちを見ながら気合いを新たにしています。
今年もワインの楽しさをたくさんのみなさまにお届けできるよう、頑張っていきます!2024年のニューリリース、ぜひぜひ楽しみにしていてくださいね!
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葡蔵人~Book Road~ワイナリー
東京の下町にある小さなワイナリー。醸造所を通して、葡萄と人とがつながって幸せになって欲しいという願いから「葡蔵人」と名付けました。だからこそ国産のぶどうにこだわり、日々の生活に寄り添う“笑顔になれる”ワインを造っています!
【アクセス】
東京都台東区台東3-40-2 最寄り駅:JR「御徒町」駅、日比谷線「仲御徒町」駅
【営業時間】
◆ワイナリー(販売・試飲・タップスパークリング)
月・火・木・金(※水曜日定休日)12:00~15:00、17:00~19:30
土・日・祝 12:00~17:00
◆レストラン
[ランチ]木・金・土・日 11:00~14:00(L.O)
[ディナー]木・金・土 18:00~21:00 ※TAPスパークリング月会員様限定(予約のみ)
◎2024年9月からレストランオープンの曜日が変更となります。Instagramなどのお知らせをご覧ください。
▼ 詳しくは、ホームページや各種SNSをご覧ください♪
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