芥川賞という太陽だけじゃなく
太宰治「逆行」
村上春樹「風の歌を聴け」
阿部和重「ニッポニア・ニッポン」
松尾スズキ「老人賭博」
千葉雅也「デッドライン」
これらの作品に共通するものは何でしょう?
そうです、どれも「芥川賞候補作」です。「候補作」であって「受賞作」ではない。でもどれも私に重要な示唆を与えてくれた大切な作品ですし、単純に読んでいてゾクゾクしました。これは今までの本とは違うぞって。もちろん面白いかどうかは主観の産物ですけど「あれ、この時の受賞作って何だっけ?」と思わされたこともあります。
この辺、ちょっとプロレス的です。時には負けるが勝ちというか。
昔、アメリカのプロレス団体WWF(現WWE)に参戦が決まったグレート・サスケが対戦相手として後輩であるTAKAみちのくを呼び、PR的な試合をして勝ちを収めました。すると、その試合を観たオーナーのビンス・マクマホンがサスケよりもTAKAの方を気に入ってしまったのです。私も動画で観ましたが、サスケは日本的なストロングスタイルを打ち出そうとして動きが硬かった。それに対してTAKAは気楽な立場だからか、ノビノビと自由に戦っていました。それでいてしかるべき場面では相手をちゃんと立てる。いい仕事をしてたのは明らかにTAKAの方でした。結局サスケはみちのくプロレスに戻り、TAKAがWWFと契約することになりました。こういうこともあるから人生は面白いんですよね。
何が言いたいかっていうと、一般公募の新人賞の場合、受賞作だけじゃなくて最終候補作も(著者の了承を得られたら)部数を絞った上で書籍化して欲しいってこと! アンソロジーでもいいから。絶対面白いと思うんだよね。太陽は誰の目にも眩しいけど、自分にとってだけ眩しいという輝き方もあるはず。選考委員の支持と読者のそれとが明らかに食い違うケースもあるでしょうし。
結果よりも内容を大事にしたい。プロセスを楽しみたい。プロレスじゃないよ。もちろんプロレスも楽しみたい。