出版社が生成型AIツールを活用することのいいことと心配なところ
便利なのは間違いない。もちろん使い方のコツとか、どこまで何ができるか、これからどうなるかの展望に関してはこの数ヶ月のスピード感を鑑みると、「私じゃ鑑みれません」ということになる。当たり前だ。私が将棋の藤井さんの何を語れるのだ。すごさを言語化なんて、そんなそんな。
インターネット・ブラウザ登場の時以来のインパクト
でも久方ぶりに興奮しているのは事実である。ガツンときたインパクトはウェブブラウザをはじめて見たとき以来の衝撃だと思う。もちろんiPhoneを最初に触った時も「うわー」って思ったけど、それよりパンチがあったんじゃないかな。iPhoneはデバイスとしてのインパクトや可能性は抜群にあったのは確かだけど、適当な文字列をどれどれと入力して戻ってきた情報の驚きは、はじめてヤフー検索をした時以来の鳥肌感覚だ。siriやalexaなどの前振りがよくも悪くも受け身だったので、そこからのギャップ萌えみたいなものもあったのかもしれない。全然余談になってしまうが、視覚的なことでいうとgoogleなどの検索結果って一瞬でぱっと表示されるじゃないですか。それに対して、彼らは戻す文字列が高速ドミノ倒しみたいにだらららら、ってくるじゃないですか。それもなんか「考えながら動いてます」って感じで生々しい。演出じゃないんだろうけれども。
出版社が生成型AIを活用できるのはこのあたり?
できること、に関してはもう、そんな記事で世の中あふれかえっているのであらためていうまでもないのだけれど、こと出版社に関してどう使えるかなということで挙げてみると、こんな感じかなあ。販売系に関しては販売分析など色々あると思うが出版社にユニークなところはあまりないと思うので編集寄りの目線で考えてみる。
企画の立案:立案、具体的には案出しのアシストという感じですかね。なにしろ知識量とその整理に関しては人間よりはるかに処理が早いので、候補をあげたり比較表を作ってもらうのはとても便利でしょう。
ライティング:文章やコピーの生成もすらすらやってくれます。達者です。書こうとしていることが具体的、はっきりしているならばスピードアップできるかもしれません。ファクトチェックに関しては間違えることもあるので任せる領域に関しては注意が必要だと思います。あとで触れる著作権に関しての懸念もあります。つい最近、GPT4上での話ですが、ブラウジングで最新情報まで集めてくるのをベータ版機能として実装されましたが、ちょっと試した感じだと「ベータだな」って感じでした。時間も結構かかります。ブラウジングでの情報収集に関してはより一層ソースとファクトチェックが重要になるでしょうから、現時点では、ここは手動で当たった方が近道かもしれません。ここだけの話ですが、もちろんウソですが、このサービスを触りたての時に、妄想が膨らんで、「名言集とかコピペだけで作れるんでは」と試してみたが大嘘連発されて瞬間撃沈したのはいい思い出です。我ながら薄っぺらい(そんな自分は嫌いではない)。
校正:原稿をプロンプトとして与えることで文章の誤字脱字や文法や表現の誤りを検出することもできるんですね。現状は、たとえばChatGPTならば一回に約2000文字を処理することができます。一定のルールを指示した上で依頼すると校正のブレがないかと思います。ただしここの部分、最後の方で蒸しっかえします。
作画:open aiのサービスDALL・AでやはりAIを使って画像を生成してくれる機能があります。基本有償だけど、bingのimage creatorで無料(ただし回数制限あり)で使うことができます。このnoteの最近のタイトル画像もこのサービスを使って生成したものです。こと、ここに関しては遊びなので何が出るかな、と思ったイメージで出てくるかガチャみたいな感覚で楽しんでいる。でも仕事としてはどうでしょう。プロンプトの精度もあるとは思うけれど、脳内にあるありありとしたイメージ通りに描いてもらうことはまだ難しいかもしれない。adobeも生成型AIを導入と宣伝しているが、主に操作性向上やアシスト機能で、今のところ自動生成の方向ではないようです。
組版:DTPとAIについてはあまり話題にも出たことがないのではないでしょうか。大手印刷会社も、彼らの得意分野である印刷への連携と、クラウド上で版管理までできる操作はブラウザ上でできるシステムを提供していますが、AIのサービスではないですよね。DTPそのものを生成型AIが代行することはできないと思いますが、今後2方向で可能性があるのではないでしょうか。1つ目はXML化です。ここに来てあらためてXMLを持っていることに意味があるのではないかとも思ったり。これは電子書籍が登場した頃も出た話ですが、PDFとネイティブとXML持っていれば安心。あ、AIの話じゃないか。でもChatGPTでXMLのコードは吐き出せますね。2つ目はinDesignのcopilot化への期待である。microsoft365の新機能として発表されたcopilotは、ChatGPTのエンジンと組んで、自然文による指示でEXCELやTeamsなどを動かすことができる機能です。inDesignをはじめとするadobe製品は現時点ではこの方向のサービス展開についてリリースはしていないようですが、舵を切ることになるとその精度によっては制作環境が大きく変わる可能性があるでしょうね。
大きなくくりでいくとこんな感じでしょうか。他にも文字起こしとか表の作成など細かい部分では即戦力になってくれそうだ。アウトプットがはっきり確認できるシンプルな作業については躊躇なく使っていいのでは、と思います。
AIに任せると不安なところは?
逆に心配だな、まかせちゃ危ないな、という点もありますよね。
まず浮かぶのが、次の2点です。1つめは単純に間違うということです。2つ目が著作権侵害や守秘義務違反などの法的リスクです。
間違う、に関しては使ったことがある人は誰しもエゴサーチをして苦笑したことがあるのではないでしょうか。私も名前で聞いてみたら声優で俳優もちょこっとやる人だそうです。そう、ヒントや縛りがないと彼らの想像力が解き放たれてしまうのです。検索でしたら同姓同名の人が引っかかってきて間違うリスクはありますが、創作されるとファクトの確認が大変です。縛ったり、「あなたは探偵です」みたいにAIに暗示をかけて深掘りして聞くという方法もありますが、より精度の高いウソをでっち上げる傾向があります。
今あらためてやってみたら、ただ名前を入力するだけだと今は門前払いされるみたいですね。知らなかった。ただですね、少しヒントを与えると俄然それっぽくなるですよ。
日本の出版社に勤めて、東京に住んでいる相澤健一のプロフィールを作成して下さい。
なんかかっこいい感じになっているぞ。盛ってませんよ!有料ユーザだからヨイショしている可能性はあるけど。大事なことですよね。それはともかくこれ、私を直接知らない人がみたら絶対信じますよね。知っている人も信じちゃう人多いんじゃないかな。何しろ私本人が信じ始めているぐらいだから。出版社と東京という漠っとしたキーワードを与えるだけで彼らはもっともらしい、そして全部間違っているわけでもないから判断に困っちゃうような創作をしてくれるのです。この話が厄介なのは、それっぽい分気づかず見過ごされやすいことなんですね。たとえばチームで分担して調べ物をしていて、その中の一人がAIアシスタントを使って創作させていた場合、いい感じに集約されてからチェックしても、それっぽいと上司だって気づくことは難しいです。さらにそれが事前の知識がない領域の情報だった場合はお手上げです。調べ物はお願いしちゃダメですね。bingのchatはソースのリンクも出るけどまだまだこわい。
もう1つは法的なところです。こちらは2つ心配が浮かびます。1つめは著作権法に抵触する部分、2つめは守秘義務違反です。
あ、大事なこと。私は法律はシロートなので知識も解釈も基本いい加減ですあらかじめ申し上げておきます。以下は法律的な正しさは置いておいて、私が懸念しているところです。
著作権法に引っかかるのではないかということについては、生成型AIがアウトプットするトークンが元情報の著作権を侵害する内容になってしまった時などが想定されるのではないでしょうか。これ、可能性的が実際あるのかないのかわからない。大量にインプットされた言語や情報はそのままの形で提供されることはないでしょう。ただ、たまたまでも結果の文字列としてとそうなってしまった時、責任はどうなるか、という話ですね。イラストとかだと偶然も結構ありそうな気もします。ここについては、OPEN AIは免責してたと思います。利用は商用含めてOKだけど、利用の責任はユーザーね、と。だったら商品のコンテンツに関わる部分は生成型AIを使うのはNGね、という社内ルールを作ればいいではないか。使っていいところと使ってはいけないところを分ける。わかんなかったら聞いてね、にする。でも残念ながらそれで全部は解決しない。なぜなら出版社は著作権者(厳密には違うけど以下著者)のコンテンツを預かって商売をしているからなのです。著者が生成型AIに書かせたところが侵害しちゃった場合責任に問われるのは誰だ?というところです。ややこしいです。もちろん一般的な出版契約書には「他の本とかからパクっちゃダメだよ」という条文はあるでしょう。でも、いや自分パクってないすよ、AIがやらかしたんすよ、といわれたらどうだろう。どう転んでもややこしい。自社も他者も売り物のコンテンツに直接関わるところは使わない取り決めをしたほうがいいのですかね。一足先にAIの自然言語作成サービスが広がった翻訳業界は、クライアントから「AI翻訳はNG」と言われることが多くなったと最近聞きました。超訳がチェックできないから、というのがその理由だそうですが、なるほど。。具体的に実行するとなると、発注書時点で、っていうことになるんですかねえ。
2つめの守秘義務違反についてなのですが、これも悩ましいのです。もちろん守秘義務の定義は契約書で定められるわけですが、例えば先ほど使えますね!のところで挙げた文字校正や表記統一の部分、これ一見とっても便利超やばいだけに感じられるんですが、これってテキスト内容を学習素材としてAI運営者に差し出しちゃっているわけです。著作権法では解析用に複製して使うことは、日本ではOKとなってるようですが、出版社が本件(書籍とか雑誌とか)で知り得た情報を、他者のサーバにアップして解析対象にしてしまうのはフツーのNDAの字面であれば余裕で守秘義務違反になってしまわないか?オプトアウトしなければ、デフォルトでは入力されたプロンプト は解析対象になるはずである。やばみですよね。あちこちでAPI連携しているサービスだって該当しますよね。提携していることを知らずにうっかり、みたいなことだって大いにありそうです。どうすんのこれ。そしてこれも、先ほどの著作権の話同様、自社だけの問題じゃないとですよ。テクノロジーによって時が解決してくれるかもしれないが、その場合はサービス料金が跳ね返ってくるような予感が大いにします。そりゃそうでしょう。
というようなことをオフラインで話したいのです。
というわけで、不安要素を思いついてから期待と妄想と不安の三つ巴がなかなかいいバランスになってしまって今を迎えております。もちろん弁護士さんに聞いたりもできると思いますが、そもそも日本の法律の隙間をついている部分と、日本ではOKだけど海外ではまずい部分(承知の通りどこの国で情報が使われるかはわかんない)とか、そもそも彼らの成長速度が凄まじいので、今うかがった見解でしばらく大丈夫か、そんな判断誰ができるの、なんてこともありますよね。わかっている地雷は避けて穏便に使うようなルールが取り急ぎは必要なんでしょう。この辺、同じような課題感ある方と話したいな〜ということで、無駄に長く書いてしまいました。
最後に、このエントリを書くにあたっても幾度となく生成型AI氏に質問を投げかけたわけですが、bingAIが都度文末に入れてくる定型的なひと言がなんというか、エモかったのでご紹介します。
人ごとかよ!(そうか、人間だもの。)
参考リンク
追記:JEPA主催のオンラインセミナー、橋本 大也 氏: 「ChatGPTと本の未来」を受講した。
本記事中では、ベータって感じっすねー、とろくに見もせずにうっちゃっていたブラウジングとプラグインについて、サービスの紹介と活用例が豊富です。すごい。英語コンテンツの層の厚みもあるだろうが、もうSFである。こちらではアーカイブ視聴もスライドDLもできる(太っ腹)なのでご参考まで。
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