世の中がいいほうに変わりますように
園児がバスに取り残されて亡くなった。
その子の水筒は空っぽで、おそらく自分で飲んだのだろうと思われる。
事実(園児が取り残され亡くなった)に比べると、ストーリー(水筒が空っぽ)は、感情を激しく揺さぶる。この揺さぶりが世論を動かし、世の中を良くすることもあるし、その逆もある。
実際、空っぽの水筒について考えると、私自身がすごくつらくなってしまう。きっと多くの人が同じはずだ。
それくらい、ストーリーの持つ影響力は大きい。
医療の現場で、教科書の内容より先輩の成功失敗談のほうが記憶に残りやすいのは、それらがストーリーであり、いくらか感情に訴えるからだろう。
ストーリーには力があることを知っていれば、それを有効に使って誰かの行動の変化につなげることができる。また、逆に語られるストーリーから距離をとることで、自らの心身を守ることもできる。
世の中にはストーリーが溢れている。その中でも特に感情に響くストーリーは、テレビやネットで繰り返し報道される。それを見て自分の心も揺さぶられたときは、あえて少し距離をおくようにしている。そうすることで、ちょっと違うふうに見える、ときもある。
もう一回、つらくなるけれど、今回のストーリーに戻る。
この子の遺したストーリーが、世の中をいいほうに動かし、再発防止のシステムができますように。
たとえば、アメリカのスクールバスの中には、一番うしろの席にあるスイッチを操作しないとキーが抜けないというものがあるらしい。あるいは、エンジンを切ると後方のブザーが鳴り、それを止めるためには最後尾まで行かないといけないシステムのバスもあるという。こうすると、運転手は必ず後ろの席まで行く必要がある。
こういうものが日本でも採用されることを切に願う。
最後に。
君のことを、子どもたちや妻に語って聞かせます。
どうか安らかに。
参考
幼稚園バス3歳児置き去り死、防ぐには? 「スクールバス王国」アメリカ 安全策は意外にアナログ でも確実