坂本社長、ありがとうございました。
大学4年生のとき。
友人たちが就職を決めるなか、サラリーマンとして生きるイメージがわかず、「イメージできないことはしない」と言って、就活を一切せずにブラブラしていた。
そんなある日、友人の家で就活生のための企業年鑑みたいな本をパラパラめくっていたら、そこに坂本社長がいた。
読むうちに惹きつけられ、ここだけ受けようと決めた。
社長面接では「お勧めのラーメン屋は?」と質問されたくらいだった。(道案内の上手な人は仕事ができる、という意図らしいが、俺は「ラーメンのお勧めはありません」と答えた)。
1998年、就職氷河期だったが、運良く採用された。
創業して10年に満たない企業の中では、野心溢れる先輩・同期たちのエネルギーが燃えたぎっていて……、
俺はその輪に入れなかった。
同期に早稲田出身の男がいたが、彼は「エロ漫画家になりたい」と言って早々に退職してしまった。
結局、一年後には俺も失意のうちに辞めてしまう。
辞めて何したかというと、別の古本屋チェーンでのアルバイト……。
エネルギーに満ちてピリピリしたところのあるブックオフに比べると、ゆるくて、たるんでいて……、
俺はそこでも馴染めなかった。
ブックオフ気風みたいなものを中途半端に身につけたせいだ。
このままではいけない……。
いや、いい。
九大卒業のホームレスになろう。
今さら故郷には帰りたくない。それはあまりに惨めだ。
出戻るくらいなら、東京でホームレスになる。
でも、本当にそれで良いのか。
今ならまだ一発逆転が狙えるんじゃないか。
たとえば……、弁護士。
いや、一から勉強するのはハードルが高すぎる。
それに弁護士はスーツだ。
俺はスーツを着たくない。
それもブックオフを選んだ理由の一つだ。
では、どうするか。
スーツを着ない。
人生の一発逆転。
医者だ。
医学部だ。
受験勉強は下地がある。
入りさえすれば、みんな国家試験に受かるらしい。
こうして、運良く医学部に入ったのであった。
坂本社長に出会わなければ、ブックオフには就職せず、きっと脱サラして医師になるなんてこともなかっただろう。
俺にとってブックオフはブラック企業だったけれど、坂本社長は俺の人生に転機を与えてくださった恩人という想いがある。
俺の人生で「社長」に仕えたのはあなただけ。
「俺の社長」、坂本孝。
ありがとうございました。どうか安らかに。