精神科に長く入院している人の「治療目標」について相談されて答えたこと
慢性期病棟を受け持つ若手の先生から、
「ずっと入院している患者さんたちの治療目標って、どう考えたら良いんでしょう?」
と相談された。治療目標がないまま漫然と……ということに、「このままで良いのだろうか」と忸怩たる思いがあるようだった。
以下、そのときに答えたことを少しまとめる。
僕たち医者って、「治療目標」が気になりますよね。
でも、自分たちの生活を振り返ってみると、どうでしょう?
何か目標にして生きてますかね?
僕なんかは、なるべく平和に、楽に、楽しく生きたい、嫌なことやトラブルがありませんように、ってことくらいしか考えてません。
「治療目標」っていうと、症状を改善して退院とか、もっと良くなるようにとか、そういうことを考えちゃいますね。
でもたぶん、特に慢性期病棟にいて退院を積極的には求めないような患者さんたちが望む生活って、僕たちとそう変わらないんじゃないかって思うんですよ。
つまり、「なるべく平和に、楽に、楽しく生きたい、嫌なことやトラブルがありませんように」という感じじゃないのかなぁと。
だから、彼らの生活が「なるべく平和に、楽に、楽しくて、嫌なことやトラブルがないようにする」というのが、僕たちの役目かなと思っています。
もちろん、中には退院を希望する人もいます。本人は希望しなくても、こちらから見て退院できそうな人もいます。
そういう人たちが病院外で生活する道を模索し、退院を目標にするということもあります。
ただ、退院を目標にして積極的に治療して環境を整えて、いざ退院したら大変なことになった、ということも現実にはあります。
再発したとか、自殺してしまったとか。
ま、先のことは分かりませんね。
自分の仕事については、「目標がないまま治療している」と悶々とするのではなく、「患者さんのいまの生活の安定を支える役目を果たしている」と考えるのは、決して悪いことではないと思います。
以上、こんな感じ。
こんなのは医者の詭弁だ、傲慢だ、独り善がりだ、と言われるかもしれないし、そういう部分もあるだろうと思う。あくまでも、ちょっと悩める若手の医師から相談されて答えた内容ということで。