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「医療の仮面」をかぶって自分の価値観を押しつけることなかれ

一年目の女性精神科医が、

「あの患者さん、まだ若いし、外見もいいし、知能も高いし……。こうやって入院して暮らしていくのはもったいないと思うんですが」

と言っていたので、こんな話をした。

食べ物の好き嫌いの話題のとき、「〇〇が食べれないの!? もったいない! 人生損してる〜!」って言う人がいますよね。
そういうの、「ほっとけ!」って思いません?
自分なりに、好きなものを食べて、嫌いなものを避けて、別になんの不満もないのに、もったいないとか人生損してるとか言われるのって、僕は好きじゃないんですよね。
その人の生活観や人生観にそぐわない苦しみや悩みがあるなら、それを取り除く手伝いをするのが僕たちの仕事です。逆に、その人が満足しているのなら、余計な手出しはせずにそっと見守るのも、僕たちの大切な仕事ですよ。

実際、その人は長く任意入院しているが、退院を希望することなく、安全な環境で静かに暮らすことに不満がないように見える。精神科の病気を抱える人たちの中には、こういう保護的環境から外に出されることに強い恐怖心を抱く人がいるのだ。

もちろん、患者さんの損なわれた能力を補うこと、今ある能力を伸ばすこと、新たな能力を開発することを放棄していいわけではない。患者さんの状態や環境を検討した結果、積極的に背中を押さないといけないときもある。

ただ、自分の価値観・人生観が「医療の仮面」をかぶって患者さんの人生に侵入しようとしていないか、ということには常に自覚的でありたい。

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