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B'zの名曲「LOVE PHANTOM」は、どうしようもないダメ男の歌である
B'zの名曲「LOVE PHANTOM」。
かなり人気のある曲だが、歌詞をきちんと読むと、どうしようもないダメ男(かつての俺のような)を見事に描いていて痺れる。
二人で一つになれちゃうことを気持ちいいと思ううちに
少しのズレも許せないせこい人間になってたよ
ハッとさせられる名文である。
「二人で一つになれちゃうことを気持ちいいと思う」と性的な描写をにおわせておきながら、「少しのズレも許せない男」の精神面の未熟さを鋭く指摘する。
そして、カッコ良いラップ部分が、実はめちゃくちゃネチっこい。
君がいないと生きられない
熱い抱擁なしじゃ意味がない
ねえ、二人で一つでしょ
yin & yang
君が僕を支えてくれる
君が僕を自由にしてくれる
月の光がそうするように君の背中にすべりおちよう
(そして私はつぶされる)
稲葉浩志の魅力的な歌声のせいで誤魔化されているが、ちゃんと読むとけっこう気持ち悪くないだろうか。
「君がいないと生きられない、熱い抱擁なしじゃ意味がない」と自身の人生を恋人である「君」に丸投げしておきながら、「ねえ、二人で一つでしょ」などと「君」のありかた・生きかたまでを押しつけてくる。
さらには「君が僕を支えてくれる、君が僕を自由にしてくれる」と、自分の自由さえ「君」頼みにしてしまうのだ。そんな男が、月の光がそうするように背中にすべりおちてくるのだからたまらない。想像するだけでゾッとする。
だから当然、そんな依存的な「愛」は、相手を押し潰してしまう。
余談ではあるが、「私はつぶされる」の声は宇徳敬子である。また、yin & yangは「陰陽」のこと。
さて、男の独りよがりな思い出語りと恨み節は続く。
濡れる体、溶けてしまうほど、
昼も夜も離れずに過ごした時は本当なの?
君はいまなに思う
「本当なの?」「なに思う」もなにも、「つぶされる」と感じるような男から離れられたのだから、ちょっとホッとしてるだろ。
1番のサビで「二人で一つになれちゃう」、2番のサビで「濡れる体」。セックスを婉曲に表現した歌詞がたびたび出ることで、男が「君」とのセックスにひどくこだわっていることも表現されている。
セックスに溺れ、それを愛と勘違いしている、精神的に非常に未熟な男。
そんな彼も、ついに反省するときがやってくる。
欲しい気持ちが成長しすぎて
愛することを忘れて
万能の君の幻を僕の中に作ってた
良いぞ! よく気づいた!
自立した愛まであと一歩だ!!
曲調もスローになり、なんだか男の反省を応援してくれているようなムードである。
ところが……。
反省したはずの男は、最後にこうシャウトするのだ。
がまんできない
僕を全部あげよう!
ちがう、ちがうよ、そうじゃねぇだろ……。
「僕を全部あげよう」って、相手のほうこそ「いらないなにも」だぞ……。
初めての相手に一方的に入れ込みすぎる若い男性(かつての俺)が、これほど見事に描かれた名曲はなかなかない。
この曲がスゴいのは、こんな「ダメ男」を、こんなにカッコいい曲と歌声で覆い隠してしまうところである。
聞き流す程度じゃ気づかない、経験ないと分からない。
気づいて分かると、聴くたびに自分の未熟さを突きつけられているようで辛い。
そして、その時期を乗り越えると、心の名曲になるのだ。
こんな曲を創りあげた二人、天才だろ……。