コンセプトにコンセプトの追いがけスープ ~サンデーサイレンスの母を生産した男 ジョージ・A・ポープ・ジュニアとは・8
鍋物の途中でだしの素を追加すると美味である、というCMがある。
今回はこれをサンデーサイレンスの祖母マウンテンフラワーの血統を「読む」キービジュアルとしたい。
前回はマウンテンフラワーの「父はなぜモンパルナスなのか?」を解き明かす試みを行った。
そしてモンパルナスを配合で使えるチャンスが1年のみだったことも判明した。
今回はそのモンパルナスとの配合で、どんなマジックが起きるか?という話になる。
ハイペリオンとサンインロー
エーデルワイスの配合にはコンセプトがあるという話を前々回にした。
デサイデッドリーと基本設計が共通
スワップスへのオマージュ
オマハとジョンズタウンに共通する牝系を強化
というコンセプトが、エーデルワイスの血統に存在するのは前回まで説明したとおりだ。
そしてエーデルワイスとその娘マウンテンフラワーの血統にはもう一つ、俎上に載せるべきコンセプトがある。
いわゆる「ハイペリオン×サンインロー」である。(望田潤氏は2009年頃からハイインローという造語を用いて広めている)
このパターンは日本でも1970年代に猛威をふるった。最も有名な馬はハイセイコーになるだろう。
望田潤氏はハイペリオン×サンインローの典型としてレガシーワールド(1993年ジャパンカップ勝ち馬)を挙げている。
かなり長期にわたって通用する配合コンセプトの「ハイペリオン×サンインロー」だが、マウンテンフラワーの場合、そこいらで見つけるような「ハイペリオン×サンインロー」配合ではなかった。
なんと「配合種牡馬(1)→得られた産駒(2) →配合種牡馬(3)→得られた産駒(4)」の4ステップで毎回「ハイペリオン×サンインロー」が繰り返されていたのだ。
ヒラリーも「ハイペリオン×サンインロー」
エーデルワイスも「ハイペリオン×サンインロー」
モンパルナスも「ハイペリオン×サンインロー」
マウンテンフラワーも「ハイペリオン×サンインロー」
このようにコンセプトというスープを4度も「追いがけ」して、完成したのがマウンテンフラワーの血統である。引き出された旨味は相当なものだ。
マウンテンフラワーのハイペリオン Hyperion3×4クロスを、そこいらのハイペリオンクロスと同じに見るのは間違いだし、ましてや18.75%という数字に何の説得力もない。
サンデーサイレンスの活力源はハイペリオン
まったく偶然に入手した情報だが、サンデーサイレンス産駒のG1勝ち馬43頭を調査した方がいて、興味深い結果が提示されていた。
この指摘から、サンデーサイレンス産駒をG1レベルへと押し上げる重要なファクターがハイペリオンである可能性が提示されている。
そうなった要因として、今回私が説明したマウンテンフラワー(サンデーサイレンスの祖母)の配合段階、つまりハイペリオン×サンインローの4度の「追いがけ」にある、という指摘もあながち無関係ではあるまい。
優れていたのはHaloか?サンデーサイレンスか?
1986年産のサンデーサイレンス。それ以外のHalo系種牡馬は下記6頭が挙がる。
Sunny's Halo(1980年生)[0]<0>
サザンヘイロー(1983年生)[1]<0>
Devil's Bag(1984年生)[1]<1>
ライブリーワン(1985年生)[0]<0>
ジョリーズヘイロー(1987年生)[0]<0>
Saint Ballado(1989年生)[1]<1> *Devil's Bagの全弟
[ ]内は母方にハイペリオン系を持っていた本数。
< >内は母方にサンインロー系を持っていた本数。
Devil's Bagはまずまず、その全弟Saint Balladoはかなりの種牡馬実績を残したと言える。その他はいずれも(失敗というほどではないが)G1勝ち馬を1~2頭輩出するのが精一杯で、サンデーサイレンスには遠く及ばない実績に終わった。
Halo系という系統で見れば、実態はその程度の活力でしかなく、サンデーサイレンスの実績だけ飛び抜けていた。
つまりHaloが優れていたわけではなく、サンデーサイレンスだけが優れていた事になる。
そしてサンデーサイレンスに若干寄せた配合のSaint Balladoが米年度代表馬級を2頭出したが、それ以外、つまりハイペリオン×サンインローの構造を持たないHalo系種牡馬は「サンデーに比肩するHalo系」という期待に応えられない成績に終わった。これは事実である。
このような事実からもサンデーサイレンスの血統の仕組みを真正面から調べる価値がある。
そして私はサンデーサイレンスの際立った個性がマウンテンフラワーの配合にあると考えている。
真正面から血統を読めば、ウイッシングウェルを雑草血統呼ばわりして、「謎の活力」の存在を色々と想像する必要などはじめから無かったのである。
マウンテンフラワー内でのハイペリオンクロスの重層
では、マウンテンフラワーの血統内に存在する「ハイペリオンクロスの内部がどうなっているか?」。これを父の父ガルフストリームの部分をクローズアップする形でよく見てみよう。
これがマウンテンフラワーの血統において「上部4分の1」にあたるガルフストリームのブロック(区画)だ。
ペイントされている部分は母エーデルワイスの血と呼応してインブリードになっている、という事になる。
つまりペイント部分が広範囲にわたるという事は、それだけエーデルワイスの血と共通する部分が多いという事を意味する。
広範囲にクロスが重ねられているが、整理すると2つの特徴がある。
ハイペリオンの父系ではなく、ハイペリオンの母Seleneにクロスが集中している。(=チョーサー Chaucer系統、セレニッシマ Serenissima系統のクロスが濃い)
名牝カンタベリーピルグリム Canterbury Pilgrimがクロスしている
IK理論ではこのような「クロスが集結された配置」を全開という表現をするが…、
マウンテンフラワーの血統ではまさにガルフストリームが全開している。
このガルフストリーム全開の形が、ジョージ・A・ポープ・ジュニアがモンパルナス(亜リーディングサイアー、ガルフストリームの直仔)をどうしても自身の牧場に加えたかった意図の半分だろう。
さらにこの構造は3代経て(サンデーサイレンス産駒の代において)ハイペリオンクロスが発生する際にここが連動する。そういう仕掛け構造にもなっている。
残された検討項目
今回はあえて全開というIK理論の視点を拝借して、モンパルナスの父ガルフストリームがエーデルワイスとよく呼応する関係である事を今回説明した。
他方、モンパルナスの母ミニョンの部分はエーデルワイスとは呼応せず、クロスの構成に参画していない。
これをIK理論の故・久米裕は「種牡馬サンデーサイレンスの弱点になりかねない」との評価を貫いた。
次回は三度(みたび)マウンテンフラワーの血統分析を行いつつ、モンパルナスの母ミニョンは弱点か否か?という検討を行ってみたい。