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J.O.トビンとウィッシングウェルの「同質」 ~サンデーサイレンスの母を生産した男 ジョージ・A・ポープ・ジュニアとは・12

前回ウィッシングウェルとJOトビンの配合における「異質」の存在について説明した。
今回は「同質」について説明する。

今回のキービジュアルは「リフルシャッフル」である。

リフルシャッフルとは

カジノディーラーの基本的技術の一つです。
左右の手にカードを持ち、親指でパラパラと交互にカードを落として混ぜ合わせる方法。

リフル(Riffle)/日本カジノスクール

この代にまで至ると、ジョージ・A・ポープ・ジュニアの配合パターンが徐々に読めてくる。

記号化すると、
A ⇒ B ⇒ A" ⇒ B"
形態としては「積み上げ」ではなくシャッフル。それも「リフルシャッフル」である。

JOトビンにいたる配合の軌跡

JOトビンの血統を見ると、2つのコンセプトが累代で交互に現れる。

JOトビンについて私は「サーガラハッドを起点」とする読み方をした。
やや変則的な経路だが、以下のような配合パターンだ。


  1. スノーバニー Snow Banny
    [A]サーガラハッド Sir Gallahadの3×3クロス

  2. ヒラリー Hillary
    [B]エクレア Eclairを新規導入

  3. ヒルシェイド Hill Shade
    [B"]エクレア Eclairの3×4クロス

  4. JOトビン J.O. Tobin
    [A"]テディ Teddy(サーガラハッドの父)クロス6本
    [B""]エクレア Eclairの4×4・5疑似クロス(Eclair≒Mumtaz Mahal)


[A]⇒[A"]は、②ヒラリー、③ヒルシェイドの代で2代開けて、父テディを活用して再度クロスした形。
[B]⇒[B"]⇒[B""]は、エクレアにきわめて近いムムタズマハルを④の段階でセットして、疑似クロスとした形。

上に示した注目すべき累代のリフルシャッフル配合と、
JOトビンの血統における疑似クロス、EclairMumtaz Mahalの居場所を下記にて確認されたい。↓

JOトビンが持つ疑似クロス(□で囲った部分)について図示しておこう。
( ↓ 色を塗ってある部分は、JOトビンの血統内でクロスが発生している事を意味する)

エクレア Eclairは、母ヒルシェイドが3×4で2つ持っている
父の父ナスルーラの祖母が名牝ムムタズマハル(ナチスドイツにより消息不明の最期)

ウィッシングウェルにいたる配合の軌跡

ウィッシングウェルの場合は、累代の配合で、よりシンプルなリフルシャッフルが行われている。


  1. エーデルワイス Edelweiss
    [A]サーガラハッド Sir Gallahadの5・5×4クロス

  2. マウンテンフラワー Mountain Flower
    [B]ハイペリオン Hyperionの3×4クロス

  3. ウィッシングウェル Wishing Well
    [A"]サーガラハッド Sir Gallahad(=ブルドッグ Bull Dog)の5×7・7・6クロス
    [B"]カーレッド Khaledの5×4疑似クロス(Khaled≒Mah Mahal)


[A]⇒[A"]は、②マウンテンフラワーの代で1代開けて、再度クロスした形。
[B]⇒[B"]は、ハイペリオンの息子カーレッド khaledにきわめて近いマーマハル Mah Mahalを③の段階でセットして、疑似クロスとした形。

上に示した注目すべき累代のリフルシャッフル配合と、
ウィッシングウェルの血統における疑似クロスKhaledMah Mahalの居場所を下記にて確認されたい。↓

ウィッシングウェルが持つ疑似クロス(□で囲った部分)についても図示しておこう。
( ↓ 色を塗ってある部分は、ウィッシングウェルの血統内でクロスが発生している事を意味する)

祖母の父Hillary内にカーレッドは存在する
祖父Promised Landの母の父、Mahmoud内にマーマハルは存在する

配合の継続性

サーガラハッドの系統 & ハイペリオンの系統
これを交互にリフルシャッフルする。
そしてムムタズマハルに由来する疑似クロスを追加する。

JOトビンもウィッシングウェルも、かなり似たようなパターンを辿って、代々血統が作られている事が掴めただろうか?
つまり…

  • (祖母ペナンブラから)JOトビンにいたるまでの19年間
    =1955年~1974年

  • (祖母エーデルワイスから)ウィッシングウェルにいたるまでの16年間
    =1959年~1975年

ジョージ・A・ポープ・ジュニアの配合コンセプトにズレがない事、一貫した狙いがあった事がここで判明した訳だ。

日本でも海外でも、ここまで長期間、配合コンセプトを維持した事例はめったに見られない。(あるとすればそれはフェデリコ・テシオの生産馬くらいだ)

そしてこの配合のこだわりは、JOトビンという米国の名馬を生み出しただけでなく、サンデーサイレンスのスピードの源泉として蓄積・熟成され、誰も予想しなかった形で(=1990年代の日本競馬において)大きく開花した。

第8回でも説明したように、
もしサンデーサイレンスの遺伝力が「ヘイロー Halo単体のスピード能力」に依存したものだったとしたら…他にヘイロー系で(サンデーサイレンスに比肩し得るほどの)距離不問のスピード種牡馬が誕生していたはずだ。

…だが実際はそうではなかった。
結果としてサンデーサイレンスがヘイロー系のオンリーワンだった。これは歴史が証明する事実だ。

よって、サンデーサイレンスのスピードの源泉は母系にある。
つまりジョージ・A・ポープ・ジュニアが一代一代、丹念に練り上げたズレのないコンセプトにある。
細かい部分を省いて大枠で言うと…


曾祖母エーデルワイスから始まるこれら一連のスピード血統の|雑味《ざつみ》のない【集積】にあった。
それはジョージ・A・ポープ・ジュニアによる、クレイボーンファーム(テディ系により米国血統を一変させた)と、アガ・カーン3世殿下への尊敬とオマージュのようにも映る。

次回はジョージ・A・ポープ・ジュニアの最期とその後を紹介していく。

今回の連載は最後まで無料で書きます。サンデーサイレンスへの正当な評価を広めるためです。長い間誰も触らなかった話題ですので、慌てず騒がず、後々まで残る情報が書ければと考えています。 (最後まで読めたら「読んだぜ」のメッセージ代わりに♡を押して貰えれば十分でございます。)