モンパルナスの底力=1/4セントサイモン ~サンデーサイレンスの母を生産した男 ジョージ・A・ポープ・ジュニアとは・9
モンパルナスについて第7回で説明した。
日本競馬の歴史を塗り替えた大種牡馬サンデーサイレンスの祖母の父でありながら、全く知名度のない種牡馬。それがモンパルナスである。
今回は再びモンパルナスについて血統を説明する。「モンパルナスの母は弱点か?」という検討である。
読み解くキーワードは「裏打ち」だ。
裏打ちとは?
普段、何気なく使っている言葉にも意味がある。裏打ちとはディスプレイの技法である。
モンパルナスの母ミニョンの血統
ミニョン Mignonの血統はざっと見ただけで何かを掴める配合ではない。
「見たって何も分からない…」そう受け取ってもらって一向に構わない。
ここでは3代どこを遡ってもイギリス、フランス、アルゼンチンのマイナー血統で構成されているのが特徴だと、それだけは言っておこう。
「マイナーな血統ばかり…」と耳にすると、
我々は「赤の他人同士が、協調性もなく、満員電車にすし詰めになっている」ようにイメージしがちだ。
(…このイメージが強いために「サンデーサイレンスの母方の血統は貧弱」と言われ続けたのだろう。)
さて本当にミニョンの血統は「何のコンセプトもない雑多な組み合わせ」の連続なのだろうか?
私なりに、ただただ血統表を見るという作業を重ねていくと、そうではないというのが回答だ。1つハッキリとしたコンセプトがある。
このコンセプトが不出走馬ミニョンの血統が持つストロングポイントだと私は考えている。
(血統表に注目部分に1-2-3-4と番号を振ってみたので確認いただきたい。 ↓ )
良い血と、良いコンセプトの継続
結論から言うと、番号1-2-3-4と振った馬は、強いインブリードを回避しつつも、4代連続してセントサイモン St. Simonのインブリードになっている。
(1)まず、その開始点となるのはフランスの一流種牡馬ラファリナ La Farinaだ。セントサイモンの4×3のインブリードを持っていた。
(2)ドリナ Dorinaは情報が少ないが、1920年代のフランスを代表する相当な名牝である。セントサイモンは3本に増量。
(3)フォックスカブ Fox Cubのように、「名牝を母に持つ種牡馬」を積極的に取り入れるのはジョージ・A・ポープ・ジュニアの配合における1つの特徴だ。セントサイモンは5代以内でも3本を維持。
↓
(4)そしてミニョンに至った段階で、セントサイモンはまだ5代以内でクロスを維持し、その本数は8代血統表で集計すると7本にまで増量している。
このように、ミニョンには4代連続してセントサイモン St. Simonのインブリードが施されているラインがある。これは偶然であるかもしれないし、計画的なものかもしれない。
だが押さえておくべきは、結果としてミニョン自身が持つセントサイモンの血量は11.718%(*8代クロスで集計)にまで達している事だ。
物事の道理として、代を経れば特定の血は薄れていくのが当たり前だ。
しかし「1881年生まれのセントサイモン」の血は薄れて消えたりせず、強い近親交配を一度も行わないまま逆に量を加算して、1946年生まれのミニョンに至ったのである。
さらに注目すべきは、ミニョンの血統内でガロピン Galopin(セントサイモンの父)の血量は10.155%にも達している。
つまりミニョンの血統において、ガロピンとセントサイモンの血量を合算すると21.8%に達する。
実に全体の1/5強が、ガロピン&セントサイモン父子の血で占められている事になる。↘
表向きは「何のコンセプトもない雑多な陳列」「他人だらけのすし詰め」であるかのように見せかけておいて、その実は、セントサイモン系でピシッと裏打ちされ、一本筋が通っている。
これがミニョンの血統の特徴、コンセプトだ。
モンパルナスの代に至ると…
ミニョンの血統のコンセプト(4代連続してセントサイモン St. Simonのインブリード)を踏まえて、その息子モンパルナスの代に至ると、これが更に強調されている。↘
モンパルナスはガロピン(10.937%)&セントサイモン(15.234%)父子で合計26.1%。実に全体の1/4強がセントサイモン父子で占められている。
先ほど説明したが、普通は「代を経れば特定の血は薄れるのが当たり前」なのだが、母ミニョン⇒子モンパルナスの血の継承において、逆にセントサイモン系の血量は増えている。
しかも表向きは5代アウトブリード配合(5代以内にインブリードが無い)だから、簡素にして堅牢、驚異の配合を持つ種牡馬と言える。
モンパルナス6つの特徴
前回までに明らかになった、種牡馬モンパルナスの血統的な特徴として、下記の3点が明らかになっている。
1950~1960年時流行のハイペリオン直系
父が良血かつ亜リーディングサイアーGulf Stream
ハイペリオン-サンインロー配合
この3点に、さらにどんな要素が加わるかを見ていく。
ハイペリオンの血統の特徴を思い出そう
ハイペリオン、配合の特徴は非常によく知られている。
そう。「セントサイモン奇跡の血量」である。
先に挙げた3点に加えて、種牡馬モンパルナスの血統的な特徴には次の要素が加わる。
ハイペリオン(セントサイモン3×4クロスを内包)を2代目に持つ
その上、血統の1/4強がセントサイモン父子
(⇒ハイペリオンが持つ「セントサイモン奇跡の血量」を強く補強!)しかし5代アウトブリード
(⇒ハイペリオン~カーレッド系のヒラリーの血を持つ牝馬と配合してもフレッシュさを保てる!)
無名のアルゼンチン種牡馬モンパルナスはハイペリオンの血を強化するなら「これぞ配合の技極まれり」という種牡馬だったのだ。
このモンパルナスの血統の特徴を踏まえて、自家所有のヒラリー牝馬エーデルワイスと配合して誕生したのがマウンテンフラワーだ。
ジョージ・A・ポープ・ジュニアは配合で何を狙ったのか?
マウンテンフラワーの配合を一見すれば明らかだ。
ハイペリオン Hyperion3×4のインブリードが施されている。
マウンテンフラワーは前回説明したハイペリオンの全開と併せて、もう狙いすぎるくらい狙っているシンプルなハイペリオン配合だ。
その素材に選んだモンパルナスは6要素にあるようにハイペリオン配合のために他の要素を排した、純米大吟醸酒のような種牡馬だったのだ。
これを今回説明しておきたかった。
可能性は確信に至る
前回、サンデーサイレス産駒の代表産駒(G1馬)が、ほぼ全馬ハイペリオンクロスを持っていた事を紹介した。
サンデーサイレンスは「ハイペリオンクロスが良い」といった、何やらふんわりした話ではなく、ハイペリオン×サンインローの4度の「追いがけ」にあるのではないか?という指摘も行った。
そして今回、モンパルナスの血統に存在するハイペリオンクロスの裏打ちの存在が確かになった。
これはもうジョージ・A・ポープ・ジュニアにより周到に準備されたハイペリオンと呼ぶべきだろう。可能性から、より確信を深める段階に至ったのである。
最初の命題に戻ろう
A:弱点ではない
ミニョンは血統をざっくり見ると確かにアウトブリードである。
だが車両の中は「赤の他人同士の満員電車」ではなく「車内にいる乗客の1/5が”ガロピン&セントサイモン校”という同じ制服を着ていた」のである。
朝の満員電車で、同じ制服を着た学生さんが10人20人と乗車している車両に乗り合わせたケースを想像してみてほしい。それがミニョンの血統だ。
そしてセントサイモンは競馬史に残るビッグファミリー、ビッグカンパニーである。
対面ホームから来た列車(配合相手)にも、セントサイモンの制服を着た人は必ず乗っている。0人という事はまずない。
これがモンパルナスの配合の実態だ。
モンパルナスは血統の1/4がガロピン&セントサイモンだから、アルゼンチン血統とはいえ「言葉が通じない相手ではなかった」。
よって、IK理論的にも「弱点」になりようがなかったのである。
今回の話はいささか長く感じられると思うが、要はミニョンは日本でよく見るような「ただ何となく薄められたアウトブリード」などではなかった。
これだけ覚えておくだけで十分だ。
(安易に強いインブリードを用いることなく)表向きはアウトブリードの形を装いながら、裏でコツコツとセントサイモンの血を強めていき、ハイペリオンが活用される時に備えてに裏打ちを施す。
ハイペリオンが猛威を奮った当時のアメリカ競馬において、モンパルナスはまさしく隠し玉の部類だがその中でも、とっておきだったのである。
とっておき。
この言葉が私がいつの日かセリの会場で話を聞いた男性の話につながる。
あれは2007年だったか2008年だったか定かではないが、私はある初老の男性が「マウンテンフラワーはとっておき、門外不出の血統だった」と話していたのを確かに記憶している。
(牧場関係者ではなく、白い泥のような馬用の天然サプリメントを扱う個人輸入業者のような人だったと記憶している。)
あの男性はジョージ・A・ポープ・ジュニアのエル・ペコ・ランチの従業員だったのだろうか?
今回の連載は最後まで無料で書きます。サンデーサイレンスへの正当な評価を広めるためです。長い間誰も触らなかった話題ですので、慌てず騒がず、後々まで残る情報が書ければと考えています。 (最後まで読めたら「読んだぜ」のメッセージ代わりに♡を押して貰えれば十分でございます。)