「読み手とつながり続けるために」ロングセラーを抱える老舗出版社が実感するオンラインプロモーションの重要性。(至光社)
BookCellarを利用する書店・小売店ユーザーに対して、新刊情報やロングセラーについての広告ページを作成できるプロモーション機能。書店に告知したい内容に、オンライン発注や資料ダウンロードを組み合わせることができ、BookCellar上で申込、制作、公開を一元管理できるものだ。
今回お話を伺ったのは、有限会社至光社の代表取締役社長・武市晴樹さん。至光社は月刊絵本『こどものせかい』やいわさきちひろの絵本などで知られる老舗出版社で、「0歳から100歳までのすべての子どもたちへおくる」を合言葉に1950年から70年以上も絵本を世に送り出してきた。
新刊・近刊案内、クリスマス本の提案などで複数回広告ページを利用されていることから、今回、広告ページ利用の背景や使い勝手、反響について話を伺った。
書店・読者との接点となるホームページをリニューアル
ーーBookCellarはいつからご利用になっていますか?
武市 実は2023年の夏からなのですが、運営会社のとうこう・あいとのお付き合いはもっと前からです。
弊社は1980年前後の高度経済成長期の絵本ブーム※の際に、いわさきちひろさんや谷内こうたさんの本などのロングセラーが生まれ、大手書店を中心に数多くの絵本をご発注いただいていました。
ところが、弊社は基本的に取次を通した常備委託販売をしておらず、メディアへの露出も少ない上、書店さんとのコンタクトも減り十分ではなかったため、次第に客注中心となって、お客さんから「至光社の絵本はどこで買えるんですか?」というお問合せを受けることもしばしばありました。
そんな時期を経て5年ほど前でしょうか。JPROへの書誌データ提供の対応も含め、ホームページを一新しようということになったのです。様々なサービスを調査した結果、とうこう・あいのHONDANA※を利用することにしました。
HONDANAであれば書誌情報を登録すれば自動でJPROにも反映されますし、EC展開も可能です。サーバー運用もしっかりしていますし、少人数で業務を回している我々のような出版社としてはワンストップのサービスはとても助かりました。
ーーHONDANAご利用の流れからBookCellarにも興味をお持ちいただいたんですね。
武市 そうなりますね。2023年の夏からはじめて、広告ページの利用は9月(『ぴっぱぴっぱのふしぎなくに』)でしたが、結果、今まで注文のなかった書店さんから注文が入るようになりました。人文書の取り揃えの多い小さい本屋からの注文が多かったですね。
ほかにも、いわむらかずおさんの「こりすのシリーズ」もBookCellarを使い始めてから、たくさんの注文が入るようになりました。
オンラインプロモーションの重要性を実感
ーーBookCellarの広告ページご利用前にはどんな広告施策を打たれていましたか?
武市 導入以前、オンラインでは、Amazon ADSや絵本専門メディアへの定期的な出稿をしていました。その中で費用対効果などの効果測定が明確なオンラインプロモーションの重要性は実感していたんです。
一方、オフライン(取次や書店)では、新年度・新刊出版時やクリスマスなど時期に応じてスポットでチラシやFAXによるPRを実施していましたが、予算的に送付数は限定的なものに留まっていました。効果測定もオンラインに比べ不明瞭でしたね。
それに、コロナ禍で出社が制限される中、デジタルにより効率的に業務を運用しなければならなくなりました。プロモーションについても例外ではなく、より良い方法があればいつでも見直したいと常にアンテナを張り模索していました。
書店さんとの日常のつながりが持てるようになったことが大きい
ーーそうなんですね。そこでBookCellarの広告ページが出てきたということですね。
武市 それに、HONDANA、BookCellar以前ではできていなかった書店さんとの日常のつながりを持てるようになってきたことも大きいですね。SNSで一時的に話題になっても日常のつながりがなければ広がりませんから。
広告ページはPRとしてコスパが良く、さほどデジタルスキルも必要なく、運用しやすい
ーークリスマス本のご案内でも広告ページを利用いただいています。リピートしていただいた理由は何でしょう?
武市 まず、費用感について。Bookcellarでは全国約4800(2023年11月末時点)もの書店にオンラインで一斉にPRが可能と言う点で、従来のアナログ手法に比べコスパはかなり良好に感じています。
使い勝手についてもページ制作から一斉配信までのリードタイム・工数が大幅に短縮できるのは嬉しいですね。担当者にさほど高度なデジタルスキルは必要なく、基本的なルーティーンさえ覚えれば運用しやすいなどのメリットも感じました。
導入間もない現在の注文実績はごく少なくはありますが、効率的に情報を伝達する導線として今後長く運用していき、多くの書店さんに至光社の絵本を知っていただくため、敢えて繁忙期のクリスマス前に広告をリピート出稿しました。
ーー直取引についてはどうですか?
武市 現在はごく少ないものの今後は増やしていきたいと思っています。掛け率をはじめとして書店さんと我々とで良い関係になるようなバランスを探っているところです。
版元として持続的に読み手とつながり続けるために
ーー神奈川県内で活動する小さい出版社や個人経営の「独立書店」が集まるブックイベント「本は港」に顔を出されたそうですね。
武市 きっかけは、昨年至光社の絵本を扱ってくださった鎌倉の「Books&Gallery海と本」の店主・鎌田さんにイベントの存在を教えていただいたことです。
他にも小田原の「南十字」さん、福山の「いつかちいさな絵本やさん」など、ここ数年独立書店さんから「買い切り」ベースのご発注や熱心なお問い合わせをいただくケースも増えていることもあり、いわゆる独立系の書店さんや版元さんの実態をしっかりと把握・理解する必要性を日増しに感じていた折でしたので、即断でお邪魔した形でした。
実際、今回お邪魔した「本は港」は神奈川県の独立書店や出版社が力を合わせ開催しているものですが、従来の委託中心の出版事業モデルとは異なる形と、書店が単に本を売るだけの存在ではなく、地域社会の中で果たせる役割を当たり前に模索しようとさえする、強いエネルギーを実感しました。
あらゆる環境が急速に変化する中で、私たちが版元として今後も持続的に読み手とつながり続けるため、考えを改めるべき部分を多々学ばせていただいた機会になりました。
ーー今までにない独立書店や小さな出版社のあらたな流れを感じられたということですね。本は港のようなブックイベントは昨今増えていますし、BookCellarのnoteで連載中の本屋発注百景でもそういった独立書店にもっと話を聞いていきたいとも思っています。
武市さん、貴重なご意見、ありがとうございました!
(取材・撮影 和氣正幸)