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【本075】『クスノキの番人』

著者:東野圭吾 出版社:実業之日本社

窃盗未遂事件をきっかけに、玲斗は、突然現れた伯母に「クスノキの番人」を命じられます。そのクスノキは百五十年以上前からある「念」を人から人へ伝えることができる神秘の大木。祈念、預念、受念を通じて、人々の「気」や「念」や「想い」を遺書のように次の世代に届けていくのです。

この小説は、何よりも物語の設定が心に刺さるものでした。また、本来ありえない設定なのに、描写がとても豊かなので、大木の枝葉が揺れる音、蝋燭の匂い、神聖な風を感じ、大木に見守られている感覚になります。

人は、相手を想い、感情を行き来させるなかで、言葉を選び、言葉を紡いでいきます。ですから、言葉で表された「想い」はその人の心の全てではなく、ごくごく一部。言葉にできなかった、あるいは、言葉にしてこなかったことにこそ「想い」の本質があるのかもしれない。そんなことを読みながら思いました。

登場人物は、みな、複雑な親子関係や兄弟関係のなかにあります。それぞれの想いをクスノキが受け止め、届けています。うまく言えないけど、みな、不器用で、不安で、後悔をしながら一生懸命に生きている、そう、迷いながらも自分の生を一生懸命生きている。そんな彼ら、彼女らに「がんばれ」って、つぶやきました。

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