アングレーム国際漫画祭2024グランプリ&優秀作品が発表されました!
さて年末年始はフランスのマンガ賞の発表シーズンですが、そのトリを飾るのが毎年1月末に開催されるアングレーム国際漫画祭です!
ヨーロッパ最大規模のマンガの祭典、アングレーム国際漫画祭!
2024年は1月25日から28日にかけて開催されました。
私は実際に行ったことはないのですが、毎回、参加されているアーティストさん、出版社さん、来場者さんなどの写真や動画をSNSで見ていると、マジで楽しそうでウキウキしてしまいます!
凝った展示やパフォーマンス、それにデディカス(イラスト付きのサイン)を描かれている様子など、すごく楽しそうです。
死ぬまでに一回は行ってみたいものです。
さて今回の記事は主にアングレーム国際漫画祭2024で発表された表彰に関してまとめます。
Youtubeライブでも詳しくお話していますので、こちらもぜひご覧ください。
ちなみに漫画賞の候補作である「公式セレクション」についても以前Youtubeでお話していますので、こちらもよかったらご覧ください。
環境賞(PRIX ÉCO-FAUVE)
『FRONTIER』(フロンティア)
作:GUILLAUME SINGELIN(ギヨーム・サンジュラン)、発行:LABEL 619(Rue de Sèvres)
地球の資源が枯渇し、人類は太陽系の惑星の彼方「フロンティア」に向けて旅立つ。新時代のゴールドラッシュに、未知のものに情熱を注ぐ科学者ジス、気性の荒い陽気な傭兵カミナ、地球を知らない炭鉱夫のアレックスの3人の運命が交じり合う。3人の波乱万丈な冒険物語。
本当にたくさんのマンガ賞で見ないことがなかった作品と言ってもいいのではないでしょうか!? 私が毎年チェックしているACBD批評グランプリ、Fnac France Inter BD賞にもノミネートされ、2023年10月に開催されたケー・デ・ビュル(Quai des Bulles)漫画祭でも一目ぼれ賞(Prix Coup de coeur)を受賞しています。
このアングレーム国際漫画祭では、ギヨーム・サンジュランの新作『SHIN ZERO』についても発表がありました。しかもなんと私の大好きなマチュー・バブレが脚本を担当し、特撮の戦隊ものをテーマにした作品だそうです。2025年の完成予定とのことで今から楽しみです。
遺産賞(PRIX DU PATRIMOINE)
『QUATRE JAPONAIS À SAN FRANCISCO 1904-1924』(漫画四人書生)
作:ヘンリー木山義喬、発行:ONAPRATUT / LE PORTILLON(原書:日本語)
1904年に絵画の勉強のために渡米した木山義喬が、慣れない米国での留学経験を描いた作品。正直、日本では古書などでしか手に入らない代物であり、日本人でもマンガ研究者や古典的マンガに興味がある人でないと知らないんじゃないかと思います…。こうした作品がフランス語に翻訳されていることが驚きです。
SNCFミステリー賞(FAUVE POLAR SNCF)
『CONTRITION』(痛悔)
作:KEKO(ケコ)、CARLOS PORTELA(カルロス・ポルトゥラ、発行:DENOËL GRAPHIC(原書:スペイン語)
フロリダ州の法律では、性犯罪で有罪判決を受けた者が、子どもの活動エリアから300フィート以内に住むことを禁じている。”懺悔村”は、刑期を終えた性犯罪者が監視下のもと集められている。ある時、住民の一人が焼身自殺し、記者のマーシアはその奇怪な死の調査を始める。
この作品もマンガ賞ノミネート作品としてよく見かけましたね。テーマ的にはとても興味深いです。
子ども向け最優秀賞(PRIX JEUNESSE)
『L'INCROYABLE MADEMOISELLE BANG』(ミス・バングの驚くべき冒険)
作:YOON-SUN PARK(パク・ユンソン)、発行:DUPUIS
老夫婦であるバング夫婦はようやく第1子を授かった。男の子と信じて疑わず使用人たちに準備をさせていたが、生まれてきたのは子どもはなんと女の子だった。男勝りなミス・バングは男の子の格好をして過ごすことになるが…19世紀の韓国の小説を、フェミニズムとユーモアをまじえて翻案。
子ども向け審査員特別賞
(PRIX SPÉCIAL JURY JEUNESSE)
『LES PETITES REINES』(小さな女王たち)
作:MAGALI LE HUCHE(マガリ・ル・ウーシュ)、発行:SARBACANE
「ふとっちょコンテスト」に優勝した3人の女の子ミレイユ、アストリッド、ハキマは7月、パリ・エリゼ通りの有名なガーデン・パーティで出会う運命にあった。そこで3人はメディアの注目を集めることになり…クレマンティーヌ・ボーヴェのベストセラー小説のコミカライズ。
『BÂILLEMENTS DE L'APRÈS-MIDI T.1』(午后のあくび 1巻)
作:コマツシンヤ、翻訳:AURÉLIEN ESTAGER、発行:IMHO(原書:日本語)
ヘンテコなことがあぶくのように湧いてくる、ここは白玉町。
この街に住むOLのひび野あわこさんの“うたかたの日々"を綴った、 心にすっとしみこむ、キュートなショートマンガです。
オルタナティブBD賞
(FAUVE BD ALTERNATIVE)
『Aline』(アリーヌ)
発行:Ik Ben Aline (オランダ)
特定のテーマで年2回刊行されてきたオランダの短編漫画アンソロジー。これまで3年、6号まで刊行された。タイトルの『Aline』は女性の名前であると同時に、絵を描くことを象徴する英語の「a Line」を使った言葉遊び。
フランステレビ読者賞(PRIX DU PUBLIC FRANCE TÉLÉVISIONS)
『DES MAUX À DIRE』(言うべき難儀?)
作:BEATRIZ LEMA(ベアトリス・レマ)、発行:SARBACANE
ヴェラの母親の頭の中には悪魔や怪物が住んでいる。母親に取りついた悪魔を追い払うためにヴェラはシャーマンを訪ねる。父親とのトラウマで男性不信になり猜疑的で偏執的な母親、精神を病んだ妻から逃れるために家を出て姿を消した父親。想像力のたまものなのか、それとも精神疾患なのか。表紙に加えて本文ページにも刺繍を用いたユニークな表現方法で、メンタルヘルスという繊細なテーマを扱う。
高校生の賞(FAUVE DES LYCÉENS)
『LE VISAGE DE PAVIL』(パヴィルの顔)
作:JEREMY PERRODEAU(ジェレミー・ペロドー)、発行:2024
帝国の筆記者パヴィルが乗る飛行機が、帝国外のカスペツィア半島の人里離れた村、ラピョサに墜落した。 数か月間滞在することを余儀なくされた彼は、この村の日常生活に貢献することを約束して、このコミュニティの習慣を研究する。 受容と寛容、そして人間社会における信念の所在を問う160 ページのSF物語。
ACBD批評グランプリ2024ノミネート作品。
新人賞(PRIX RÉVÉLATION)
『L'HOMME GÊNÉ』(気づまりな男)
作:MATHIEU CHIARA(マチュー・シアラ)、発行:L'AGRUME
アパートで一人、家事をするでも読書をするでもなく、すべてを先延ばしにして猫を眺めて暮らすヴィンセント。そんな彼の隣の部屋に魅力的な女性ジュリアが引っ越してくる。ジュリアにモーションをかけたいと思うヴィンセントが起こした行動は…。
シリーズ賞(PRIX DE LA SÉRIE)
『THE NICE HOUSE ON THE LAKE T.2』(湖畔の素敵な邸宅 2巻)
作:JAMES TYNION IV(ジェームズ・タイニオン4世)、画:ALVARO MARTINEZ BUENO(アルヴァロ・マルティネス・ブエノ)、発行:URBAN COMICS(原書:英語)
みんなウォルターの知り合いだった。子どものときの知り合いもいれば、数か月前に会った人もいる。そしてウォルターは少し…変だった。ウォルターの家に招かれた招待客。先の読めない現代ホラー。
アイズナー賞2022ベスト新シリーズ賞、2023ベスト継続シリーズ賞ノミネート。フランスでもACBD批評グランプリ2024ノミネート、Fnac France Inter BD賞2024ノミネート。アメリカでもフランスでも高い評価を受けている作品です。
アングレーム国際漫画祭でDCコミックの作品が賞を受賞するのは近年では珍しい感じがします。
審査員特別賞(PRIX SPÉCIAL DU JURY)
『HANBOK』(韓服)
作:SOPHIE DARCQ(ソフィー・ダルク)、発行:L'APOCALYPSE
1976年に韓国で生まれ、その後、姉妹でフランスに養子として引き取られた作者の回想録。2004年に実の家族を探すために母国を巡った旅の思い出が綴られる。
2023年10月に開催されたケー・デ・ビュル(Quai des Bulles)漫画祭でも新人賞を受賞しています。
最優秀作品賞
(FAUVE D’OR PRIX DU MEILLEUR ALBUM)
『MONICA』(モニカ)
作:DANIEL CLOWES(ダニエル・クロウズ、発行:DELCOURT(原書:英語)
アメリカで発売されるや否や日本語訳も刊行されたダニエル・クロウズ約7年ぶりの新作。『ゴーストワールド』以来の女性主人公モニカ。彼女の出生の秘密、彼女を置いて失踪した母親。ロマンスから超自然的なものまで多彩なテーマを入れ込み、9つの短編マンガの連作という形式で綴られるモニカの人生。
アングレーム国際漫画祭の最優秀作品が日本語で読めるのはとても嬉しいことです!
グランプリ(GRAND PRIX) 2024
毎年3人の候補者が選出されて、その中から一人が選ばれるグランプリ!
昨年は『未来のアラブ人』のリアド・サトゥフさんが獲得されましたね。
2024年の候補者は以下の3人。
◆ダニエル・クロウズ
2023年には約7年ぶりの新作『モニカ』が刊行され、日本語にもいち早く翻訳され、アングレーム国際漫画祭2024最優秀作品賞にも選ばれました。
◆カトリーヌ・ムリス
日本語では『わたしが「軽さ」を取り戻すまで』が出ています。芸術アカデミーに漫画家として初めて選出されるなどフランスでは名実ともに実力派作家です。ここ数年、何度もグランプリ候補に選ばれています。
◆ポージー・シモンズ
日本では『せかいいちゆうめいなねこ フレッド』や『せかいいちゆうめいなうさぎ ラベンダー』など絵本作家として知られているイギリスの作家です。2022年には近代マンガの祖と言われるロドルフ・テプフェールの名を冠したスイスの漫画賞ロドルフ・テプフェール賞のグランプリを受賞(ちなみに2023年の受賞者はもうすぐ『トンネル』の邦訳が刊行されるイスラエルのルトゥ・モダンが受賞していたようです)。2024年4月までパリのポンピドゥー・センターで大回顧展が開催されているそうです。
グランプリは、ポージー・シモンズさんが選ばれました!
日本では絵本しか知られていませんが、漫画も紹介されるようになるといいですね。
第51回特別栄誉賞(FAUVE D’HONNEUR DE LA 51E ÉDITION)
第51回特別栄誉賞として萩尾望都さんが選ばれました。今年のアングレーム国際漫画祭では萩尾望都さんの展示もありましたね。
ルネ・ゴシニ賞(PRIX RENÉ GOSCINNY)
フランスの漫画雑誌「Pilote」の創設者であり、『アステリックス』『ラッキー・ルーク』などの脚本家であるルネ・ゴシニを称え、マンガ脚本家を表彰するルネ・ゴシニ賞です。
最優秀脚本賞(PRIX DU MEILLEUR SCÉNARISTE 2023)
Julie Birmant(ジュリー・ビルマン)
(『Dalí - T.1 Avant Gala』(ダリ1巻 ガラの前に)作画:Clément Oubrerie(クレマン・ウーブレリー)、Dargaud)
スペインのシュールリアリズムの画家サルバトール・ダリの伝記。映画監督ルイス・ブニュエルやピアニストで詩人のフェデリコ・ガルシア・ロルカに出会った若き頃から最愛の妻となるガラに出会うまで。
若手脚本賞(PRIX DU JEUNE SCÉNARISTE 2023)
Simon Boileau (シモン・ボワロー)
(『La Ride』(ライド)作画:Florent Pierre(フロラン・ピエール)、Dargaud)
パリからブルゴーニュまで5日間の友情旅行のような自転車の旅。
小西財団漫画翻訳賞(PRIX KONISHI)
フランスでは日本のマンガが大人気ですが、小西財団漫画翻訳賞は、日本漫画のフランス語翻訳の中から優秀な作品を選考し、その翻訳者を顕彰する賞。
第7回となる2024年の最優秀賞は、酒見賢一原作、久保田千太郎シナリオ協力、森秀樹『墨攻』の翻訳を手掛けたOdilon Grevet(オダロン・グルヴェレ)さんが選ばれました。
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さてアングレーム国際漫画祭2024の結果はいかがでしたでしょうか?
最優秀作品賞はダニエル・クロウズの『モニカ』、そしてシリーズ賞に『THE NICE HOUSE ON THE LAKE(湖畔の素敵な邸宅)』とアメリカン・コミックが強い年でしたね。
そしてエコ賞を受賞したギヨーム・サンジュランの『FRONTIER(フロンティア)』。フランス語版を積読中なので、早く読まないといけないとの思いを新たにしました…!
また読み終えたら感想をSNSなどでつぶやきたいと思います…!
みなさまの気になる作品がありましたら幸いです。
参考資料:過去の受賞作品
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