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罪作りな文学賞(小説編集者の「先生には言えない話」②)

先日、直木賞のパーティに行ってきた。

直木賞は影響力の大きな賞。公的な賞のような印象もあるが、事実上文春という私企業が主催している賞である。だから候補作には必ず文春の作品が入っている

2作入れてくる回も多い。なんだかズルいような気もするが、公的な賞ではないので、自由なのである。
もちろん選考委員の先生方は完全に中立なので、候補になってからは作品の勝負となる。

そして直木賞は罪作りな賞だ。
候補作を事前に公表するので、先生は選考会当日、ヤキモキしながら待つことになる。


1人で待つ先生もいるが、各社担当編集を集めて大規模な待ち会をする先生もいる。もし賞を逃せば何とも言えない雰囲気になる。来てくれた人に申し訳ないとおっしゃる先生も多い。しかし最も辛いのは先生だ。罪作りな賞である。


直木賞には個人的な思い出がある。
数年前、僕の担当作家が候補になった。他社の作品でだ。

直木賞を獲るのは間違いないと言われていた方で、本当は次に出る「自分の担当作品」で獲ってほしいという気持ちがあった。担当作品は傑作で、自信があった。

先生にこの回で獲ってほしいような獲ってほしくないような、複雑な気持ちを抱えながら会社で結果を待っていた。そんな自分がなんか汚いとも感じた。じりじりと長い時間だった。

そして先生は直木賞を受賞した。嬉しいような嬉しくないような気持ちで、記者会見の会場に向かった。


会場で先生に話しかけた。先生は心底ほっとした様子だった。そして笑顔を見せてくれた。その姿を見たとたんに爆発的に嬉しい気持ちがわき上がってきて、景色がにじんだ。

本当に良かった。

才能を信じて、一緒に仕事をしてきた先生が、評価されるのは嬉しい。個人的にも好きな作家の方が、受賞によってもっと売れるようになるのは嬉しい。そんなの当たり前だったのだ。自分の担当作がどうとか、そんなのは関係なかった。

直木賞は罪作りだけれど、でもやっぱりそれ以上に喜びも作る賞だ。


(第2回おわり)※第3回更新は4月1日です。

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