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ゆうえん、ちの、怪談。2

楽しい飲み会は時間が過ぎるのも早い。
鈴木さんが慌てて飛び乗ったのは最終電車だった。
運良く座席に座る事の出来たことや酔いも手伝って、鈴木さんはうとうとと寝てしまう。

ピンポン、ピンポン

ドアが閉まる音で鈴木さんは目を覚ました。
どうやら電車はどこかの駅に着いて発車したばかりらしい。
窓ガラス越しに流れるホームから見える「登戸」の駅名。降りる駅はまだ先だ。
寝過ごしていない事にほっとしながらも、鈴木さんはすぐに奇妙な事に気付く。
この路線は都内から神奈川の郊外を結ぶ通勤路線、終電と言えども人が多い満員電車だ。
なのに、車内はガラガラなのだ。
(新宿駅ではあんなに満員だったのに……)
まばらに座る乗客は3人だけ。
黒いスーツの男性と、黒いワンピースの女性。
そして、白いシャツに黒いズボンの少年。
しめし合わせたかのような黒い服だけでも妙だというのに何故か皆、俯いているのだ。
(まるで喪服みたいじゃないか――こんな深夜に、一体なんなんだ?)
鈴木さんがゾッとした途端、車内の電気が消えた。
停電では非常灯が点るものだろうが、車内は真っ暗なままだ。
いつもは明るい窓の外も、黒色で塗りつぶしたように何も見えない。
車内アナウンスも無い。
それだけではない。
こんな状況なのに三人は黙ったまま、座ったままなのだ。
妙な緊張感に鈴木さんの額には脂汗が滲む。
すると乗客がゆっくりと顔を上げ始めた。
三人とも、一斉に、ゆっくりと。
(目が合ってはいけない!)
鈴木さんは本能的にそう思った。慌ててぎゅっと目を閉じる。
(目を開けてはいけない、絶対に、絶対に……!)
なぜだかわからないが、そう強く感じた鈴木さんは目を瞑ったまま、祈るように手を強く組んだ。
自分の心臓の音がうるさく聞こえるくらい、車内は静かだった。
どれくらいの時間が経ったのだろう。
暗闇の中、電車は次の駅に停まった。沈黙の中、ドアが開く音がする。
すると何人かが電車を降りる足音が続き、しばらくするとドアが閉じる音がした。

また電車が動き始めると、明るくなる気配を感じる。
鈴木さんが目を開けると不思議な事に、今まで誰もいなかった車内は人で溢れていた。
いつもの通りの満員の車内に「次は向ケ丘遊園です」と車内放送が流れる。
強く組み過ぎた両手は痺れてなかなか解けなかった。

鈴木さんは今でも思う。あの駅は何だったのかと。

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